産婦人科医Hさんの無痛分娩体験談/田中ウィメンズクリニック
ご自身が産婦人科医で、1人目のお子さんを自然分娩、2人目のお子さんを無痛分娩で出産したHさんの体験談をお伺いしました。
基本data
■name/Hさん
■年齢/30代
■お住まいのエリア/東京都目黒区
■家族構成/夫+妻+子ども2名(7歳と4歳)
■出産施設/自由が丘「田中ウィメンズクリニック」 ※2020年に閉院
■無痛分娩回数/1回
取材時期:2021年10月
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産婦人科医として無痛分娩を体験する
interviewer:Hさんは産婦人科医とお聞きしました。
Hさん:はい。私は産婦人科医なんですが、現在は臨床(実際に診察・治療すること)には、あまり出ていません。現在は国際保健を専門として、開発途上国の産婦人科医療の向上に携わっています。
interviewer:現在は臨床をあまりされていないとのことですが、以前はお産の現場で産婦人科医として働いていたということでしょうか?
Hさん:そうです。5年前ぐらいまで茨城や東京の総合病院で働いていました。現在も土日のタイミングが合う時には診察をさせていただいています。
interviewer:お子さんが生まれたことがきっかけで、働き方を変えたということでしょうか?
Hさん:2人目が生まれて、現在の職場に就職したことがきっかけで、臨床からは少し遠ざかることになりました。
interviewer:お子さんが2人いらっしゃいますが、どちらも無痛分娩だったのですか?
Hさん:いえ。私は上の子は自然分娩、下の子は無痛分娩で産みました。
interviewer:それぞれ違った出産スタイルを選んだのはなぜでしょうか?
Hさん:産婦人科医として、いろいろなお産を体験したいという想いがあったからです。2人目を無痛分娩で産んだのも、1人目の出産がつらかったからではなく、自然分娩も無痛分娩も、どちらも経験しておきたかったというのが大きいですね。1人目の時は、自分の妊娠・出産にどんなリスクがあるかわからなかったので、設備や体制の整った大病院で出産しました。2人目は自分自身のリスクがある程度把握できたので、クリニックでの無痛分娩を選びました。
interviewer:無痛分娩はどこのクリニックでされたのですか?
Hさん:自由が丘にあった「田中ウィメンズクリニック」です。院長先生が引退されて、去年の夏頃に閉院しちゃったんですけれど。
interviewer:以前、別の方にインタビューした時も、同じクリニックで無痛分娩をしたという方がいました。無痛分娩では有名なクリニックなんですか?
Hさん:有名だと思います。院長先生は「選択的無痛分娩※」というのを日本で初めてスタートされた方なんです。クリニックなんですけれども、もちろんその先生が1人で回しているわけではなくて、いろんな大学からドクターが当直で来て現場を回しているという体制でした。このようなバックサポートがあったり、無痛分娩に関する説明がきちんとしていたので、もし万が一何かあっても安心できるなと思いました。
※選択的無痛分娩(計画無痛分娩)・・・あらかじめ予定日を決めて、薬剤で陣痛を誘発して出産にのぞむ無痛分娩。
interviewer:その病院を選んだ理由を教えて下さい。
Hさん:無痛分娩をした友人が1人いて、「このクリニックで無痛分娩をしてよかった」と言っていたのと、住んでいるエリアから近かったというのが最初ですね。それで、ホームページで情報を見て、ここなら安心だろうと思い、選びました。
interviewer:お医者さんって、独自の情報ルートで病院の評判や情報とかを知っているのかと思っていたのですが、普通にネットで検索して調べるんですね。ちょっと意外でした。
Hさん:独自に情報をもっている医師もいるのかもしれないのですが、私は普通にインターネットを検索して、ホームページを見て調べました。
産婦人科医が無痛分娩できる病院を探す上で、チェックする項目とは
interviewer:医師の方って、無痛分娩ができる病院のホームページを調べる時に、どういう部分を主にチェックするんですか?
Hさん:私の場合は、その病院の無痛分娩に対する考え方と診療実績を見ますね。単純に「分娩数」だけで見てしまうと、自然分娩と無痛分娩の数が一緒になってしまっている場合もあるので、あくまで無痛分娩数がどれだけなのかをチェックします。経験が豊富な病院と、少ない病院だったら、経験豊富な病院を選びたいですから。そして、ホームページを見る時にもう1つ大切だと思うのが「緊急時の対応や搬送先」など、何か起きた時の体制が整っているかどうかです。無痛分娩のメリット・デメリット、緊急時の対応など、リスクも含めてしっかりとホームページで開示されていると、病院として信頼できると思いますね。
interviewer:ご自身も産婦人科医だからこそ「お産には何が起きるかわからない」というのを身を持って知っているということですね。
産むまでと産んでから
interviewer:Hさんの無痛分娩の当日の様子を教えて下さい。
Hさん:無痛分娩と一口に言っても、方法が色々とあるんですが、私の場合は「選択的無痛分娩(計画無痛分娩)」という方法で産みました。まず、お産の前日に病院へ入院して、無痛分娩(硬膜外麻酔)のためのカテーテルを背中に入れました。そのままその日は寝て、翌朝6時ぐらいから子宮口を広げる薬を飲みました。さらに7時ぐらいにも同じ薬を飲みました。そのあと、陣痛促進剤を使いました。
interviewer:ちなみに無痛分娩の麻酔って、背中から注射をすると聞いたのですが、その注射自体の痛みもないのですか?
Hさん:あんまり記憶はないんです。ただ覚えてないぐらいなので、おそらく注射のチクッていう痛みぐらいはあったと思うんですが、そんなものだったのかなと思います。
interviewer:朝6時にスタートして、お子さんは何時に生まれましたか?
Hさん:私の場合は進行がゆっくりで、22時までかかりました。自然分娩で産んだ1人目の子より長くかかりましたね。無痛分娩で産んだ2人目は、産む前も産んだ後も全く痛みは感じなかったのですが、「とにかく時間がかかったな」という印象が残っていますね。
interviewer:産まれるまでの時間は、どうやって過ごしていたのですか?
Hさん:本来産まれるまでの時間は、歩いたりリラックスしたりと、妊婦が自由にできる状態が理想的なんです。そこのクリニックはそんなに歩くスペースがなかったので、私の場合は普通に座って過ごしていたように記憶してます。夫と1人目の子どもと部屋で一緒に過ごしていました。
interviewer:麻酔が切れた後は、痛みが来ましたか?
Hさん:4年以上前のことなので記憶が曖昧なところがあるんですけれど、分娩中の痛みが全く無かったことと、翌日からスタスタ歩けたことを覚えています。
interviewer:これまでのインタビューでは「麻酔が切れた後、避けた部分が痛くて、歩くのが大変だった」という方が多かったのですが、平気で歩けたんですね。
Hさん:そうですね。2人目の時は、会陰部が裂けなかったんだと思います。自然分娩で1人目の子どもを産んだ時は、会陰のところが少し裂けてしまい、しばらく痛みがあって歩きにくかったのを覚えていますね。
interviewer:出産から退院まではどれぐらい入院していましたか?
Hさん: 7日間だったと思います。
interviewer:初産の場合は、その入院期間におむつの換え方だったり、授乳だったりと色々と教えてもらうと思うのですが、2人目の場合は、産後どんなことをして過ごすのですか?
Hさん:そうですね。母乳がきちんと出るかとか、赤ちゃんの状態とかそういった部分の確認をする感じでしたね。
interviewer:たしかに。ご自身が産婦人科の医師だと自分で色々と確認できますもんね。
想像以上の痛みのなさにビックリ
interviewer:産婦人科の先生なので、無痛分娩についての知識は十二分にあったと思うのですが、ご自身が実際に体験されたことで、新しい発見などはありましたか?
Hさん:ありました!痛みがなくてビックリしました。私が以前勤務していた病院は無痛分娩をしていなかったので「無痛分娩と言っても、ある程度は痛みがあるんだろうな」というふうに想像していたんです。ところが、本当に一切痛みがなくてびっくりしましたね。あまりにも痛みがなさすぎて、出産が終わった後に先生に「どんな麻酔の薬を使っているのか」「どれぐらいの量を入れるのか」など詳しく聞いてしまいました。感動しすぎて。でも特別な薬を使っているとかそういうことではなくて、普通だったんですよね。麻酔科医の知識・技術によるところなのだと思います。
無痛分娩のデメリットは?
interviewer:無痛分娩のデメリットだと思うところはありますか?
Hさん:一般的には「鉗子分娩」や「吸引分娩」が増えるとされているので、それはデメリットだと思いますね。ただ、そもそも出産というもの自体が、自然分娩でも無痛分娩でも、実際にやってみないと何が起きるのかわからない部分があるので一概に語れないですね。
interviewer:日本は海外に比べて無痛分娩の普及が進んでいない国ですが、これからどうしていけばもっと普及が進むと思いますか?
Hさん:まずは産科麻酔をしっかりできる医師が24時間病院に常駐できる医療施設が少ないので、そこを拡充することですかね。また拡充するのが難しければ、集約化ですね。妊婦検診は近くのクリニックで診てもらって、分娩は体制の整った大きな病院で行うという、産科オープン・セミオープンシステムの導入が進みつつありますが、これがしっかりと整っていってほしいと思います。日本で特徴的なのは「クリニックでお産ができる」と言う点ですね。妊婦さん中心の手厚いケアを受けられるのはよいと思いますが、何かあった場合のバックアップ体制がしっかりあるかどうかが重要だと思います。他の国では、クリニックでお産をすることは少ないように思います。
interviewer:そうですね。アメリカ在住の方にお話を伺った時に「アメリカでは出産は設備の整った大病院のみで行う」と聞いたことがあります。日本にずっと住んでいると、クリニックでお産するのはふつうのことだと思っていましたが、世界から見たらクリニックで出産するという方が珍しいのかもしれないですね。
interviewer:無痛分娩の費用については、高く感じましたか?
Hさん:私が無痛分娩をした「田中ウィメンズクリニック」は、食事が豪華な病院でした。それこそ、毎日フレンチのフルコースみたいな食事が出ていました。全室個室でしたし「これぐらいするだろうなぁ」という高さでした。いずれにせよ無痛分娩は全額自己負担なので、どうしても高くなっちゃいますよね。
interviewer:無痛分娩を他の人にオススメしたいと思いますか?
Hさん:低リスクの経産婦さん(第二子以降)で、痛みなくお産をしたいという方にはオススメですね。
interviewer:母ではなく医師として、無痛分娩がもっと広まってほしいと思いますか?
Hさん:医師としては「痛みのないお産をしたい」と思うすべての女性が、無痛分娩を含めて自分の希望する方法で産めるようになるといいなと思います。日本では「無痛分娩で産みたい」と思っても、地域に十分な体制が整っていない、費用が高すぎる、などの理由でできないところもまだいっぱいあると思うんです。すぐに解決できる問題ではなく、日本の周産期医療を今後どうしていくかの議論から必要になりますが、将来的には今より多くの地域で安全で快適な無痛分娩が選べるようになると良いなと思います。