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2024.07.27
出産や育児を応援するサービス・人々

助産師_佐藤繭子さんvol.01 「助産師の仕事とは? 」

出産におけるエキスパートといった印象が強い助産師さん。実は出産時だけでなく、女性の一生のあらゆる場面で寄り添ってくれる女性の健康のスペシャリストでもあります。しかし、妊娠・出産でお世話になる時は、ゆっくりとお話をする機会はなかなかないという方が多いと思います。そこで今回は、大学で教員として医学生に指導をしていた経験もある助産師の佐藤繭子さんに、ふだん聞けないような貴重なお話を伺いました。

佐藤繭子さんのProfile

これまでに6000人以上の女性に寄り添い支援してきた助産師。看護師として5年間外科系病棟で勤務した後、助産師として8年勤務後、その経験を生かし、2009年より福岡県立大学看護学部臨床看護学系助手として着任。2011年3月、福岡県立大学大学院看護学研究科修了、修士(看護学)。臨床では母乳育児支援の推進に携わり、母親・医療スタッフへの情報提供や知識の啓蒙に取り組む。母乳育児支援に関する研究だけでなく、性教育(幼児・児童,子を持つ親,成人)にも積極的に取り組んでいる。現在は福岡県助産師会に所属し「福岡県プレコンセプションケアセンター」を立ち上げ、コーディネーターとして活動している。また「国際認定ラクテーション・コンサルタント」の資格を持ち、医療者向けの母乳育児支援のセミナーも開催。

どんなきっかけで助産師に?

看護学生時代の佐藤さん/佐藤繭子さん提供写真

interviewer:まず、助産師という職業に興味を持ったきっかけを教えてください。

佐藤繭子さん:元々は看護師になろうと思っていて、助産師は考えていなかったんです。おばが看護師だということと、私自身、生まれつき心臓が悪くて。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:命には関わらないのですが、プールやマラソンができないなど、日常生活にかなり制約はあります。

interviewer:心臓が過剰に動きやすいという感じですか?

佐藤繭子さん:そうです。1分間の脈拍数は普通60〜80回くらいなのですが、運動をすると脈拍数が180回くらいになってしまいます。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:そういう病気があったので、幼い頃から医療関係には興味を持っていて「看護師になろう」と看護学校に入りました。実習の時に、産婦人科の病棟に行ってお産に立ち会わせてもらったのですが、助産師さんがすごくかっこよく見えて。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:そこで出会った助産師さんがロールモデルになった感じです。お母さんを助けつつ、赤ちゃんのお世話もしていて、しかも自立して動いているように見えました。医師と協力して、お母さんを産むところまで導いていく感じがいいなと思って。看護師さんではなく助産師さんのすごさを感じた瞬間でした。

interviewer:確かに助産師は、単独で赤ちゃんを取り上げることが認められているので、自立していると言えますね。

佐藤繭子さん:はい。正常なお産だったら、助産師だけで取り上げることもできるし、(助産院などの)開業権があるのは、医師と助産師ということだったので、それもすごいなと。病院に勤めるだけでなく、開業という方向性もある。例えば助産院を作って自分で赤ちゃんを取り上げるとか、いろんな選択ができるのもいいと思いました。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:あとは、純粋に「赤ちゃんがかわいい」ということもありましたが、医療という人の生死に関わる仕事の中で「生」に関われるのは助産師さんしかいなかったので。実際に看護師と助産師と両方の仕事をしてみて、お産の場面でも悲しい場面はありますが、新しい命が生まれて「うれしい、おめでとう」と純粋に言える現場はいいなと思いました。

interviewer:資格としては、看護師の免許を取ってから、助産師を取るのが基本ですよね。

佐藤繭子さん:そうです。日本では、そのルートしかありません。

助産師になるまでの道のりを教えてください。

看護学生時代の佐藤さん/佐藤繭子さん提供写真

interviewer:資格を取る時に、どんな勉強やトレーニングをするのでしょうか?

佐藤繭子さん:まず看護師になるために、基本的に必要な科目があって、基礎医学、解剖学、薬学などを勉強します。その上で、実際の内科、外科、産婦人科、泌尿器科、皮膚科など、基本的な科目の疾患も習いつつ、それに伴う看護を一緒に学びます。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:まず、そういった講義形式のトレーニングをした後に、演習といって、実際に病院に実習に行った時に自分が動けるようになるためのトレーニングをします。動きだけでなく、思考のトレーニングもあります。そうやって実習に行って、その上で国家試験に受からないと看護師にはなれません。

interviewer:正看護師からだと、学校に入ってから3〜4年はかかるのでしょうか?

佐藤繭子さん:そうです。専門学校だと3年で、大学だと4年です。

interviewer:看護師から助産師になる時にも、結構ハードルがあると思いますが、そのあたりはどうですか?

佐藤繭子さん:私たちの時は、助産師学校に入るための倍率が高くて、8倍だったと思います。

interviewer:えっ、8倍ですか?

佐藤繭子さん:助産師国家試験の受験資格として、正常分娩の介助を10例以上経験するというのが規定で決まっています。そういう助産実習も必要なので助産師学校自体の定員が少ないのです。10人とか、少ないと5〜6人定員の場合もあって、結構狭き門でした。

interviewer:そういうことなんですね。

佐藤繭子さん:今は専門学校か大学・大学院で、1年もしくは2年で助産師になれます。以前は、半年ずつのコースで保健師と助産師の両方を、合計1年で取れるところもありましたが、今は教育の充実ということで長くなってきています。最低でも1年はかかりますね。

interviewer:助産師学校に通っている間は、看護師として働きながら勉強するのですか?

佐藤繭子さん:いえ、基本的には難しいので、私は助産師になるために看護士の仕事を一旦退職して、1年間助産師学校に行きました。

interviewer:なるほど、大変ですよね。それでも働きながら学校に通う人もいるんですか?

佐藤繭子さん:助産師に関しては、多分無理だと思います。全日制の学校が多いので、常勤では難しく、看護師の資格を生かして、アルバイトしながら通うということはあるかもしれません。

interviewer:授業で拘束される時間はかなり長そうですね。

佐藤繭子さん:朝から晩まで授業が入っています。

interviewer:そこまでやっても国家試験に全員受かるとは限らないということですよね?

佐藤繭子さん:国家試験は、看護師も助産師も合格率90%以上です。

interviewer:学校に入るには狭き門ですが、国家試験の合格率は高いんですね!

佐藤繭子さん:基本的に落とすための試験ではないということもありますが、免許を得ないと、結局専門職(助産師)として働けないので、みんなしっかりと勉強して合格のレベルまで上げてきています。

interviewer:では、まずは学校でたくさんのカリキュラムや、長い授業時間をクリアするのが大変ということですね。

佐藤繭子さん:そうです。だから、まず入学試験の門戸の狭さと、あとはきちんと医学的知識を身につけないといけないので、実習と普段の勉強はやっぱり大変だと思います。

助産師の仕事の領域は出産時だけではない。

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interviewer:大変な日々を乗り越えて、助産師になったわけですね。

佐藤繭子さん:はい。でも実際に働いてみてそれを上回る楽しさはありました。元々助産師さんのイメージは「お産に携わる人」でしたが、今も働いているとお産だけではないということを感じます。

interviewer:助産師さんの仕事はお産以外にどんなことがあるのですか?

佐藤繭子さん:助産師は、生まれてから死ぬまで「女性の一生に寄り添う仕事」と言われています。もちろんお産の場面や産後に一番手助けが必要かもしれないですが、生まれてからの育児、性に関することは老年期でも悩む人がいますし、あと女性特有の病気で困る人もいます。そういう相談やケアには、助産師が必要なのかなと思っています。

interviewer:そうですね。助産師は、名前に「産」がついているので、一般的にも出産に特化したスペシャリストみたいなイメージがありますよね。でも、そうではないということですね。

佐藤繭子さん:女性の人生のすべてです。助産師という職業名のルーツは「産婆さん」からきています。最初は赤ちゃんを取り上げるのが主な役割だったのです。

interviewer:時代とともに助産師の仕事の領域が広がっていったということでしょうか?

佐藤繭子さん:そうです。

interviewer:なるほど。では将来的に助産師さんの名称が変わることもあるかもしれないですね。

佐藤繭子さん:確かに。英語では助産師のことをmidwife(ミッドワイフ)と言いますから。

interviewer:どういう意味なのでしょうか?

佐藤繭子さん:元々の語源は確かwith womenで「女性と共にある」と教わりました。

interviewer:すごくいいですね。その方が的確に役割を表している感じがします。

佐藤繭子さん:そう、だから助産師は「女性と共にある人」とイメージするといいと思います。

これまでのお仕事について。

新人の頃の佐藤さん/佐藤繭子さん提供写真

interviewer:看護学校を卒業してからこれまで働いてきた経歴について教えてください。

佐藤繭子さん:最初は、看護師として千葉県にある「船橋市立医療センター」の外科系の総合病棟で働いていました。

interviewer:何年くらいですか?

佐藤繭子さん:4年間です。仕事しながら助産師学校の受験勉強をしましたが、結果は補欠で入れませんでした。そこで一旦退職して、アルバイトしながら予備校にも行きました。

interviewer:助産師学校に入るために、予備校にも?

佐藤繭子さん:もう絶対落ちたくなかったから、週1回ですが、予備校というか塾に行きましたね。それで、ようやく助産師学校に受かって1年間通いました。

interviewer:なるほど。では助産師学校を卒業後は?

佐藤繭子さん:当時の「浦安市川市民病院」、今だと名称が変わって「東京ベイ・浦安市川医療センター」で、助産師として8年間勤めました。そこで私自身が娘を出産して、現在の拠点である福岡県に引っ越してきました。

interviewer:福岡県ではどこでお仕事を?

佐藤繭子さん:福岡県立大学の看護学部で教員になりました。

interviewer:この時点で、現場を離れたということでしょうか?

佐藤繭子さん:そうです。だから、臨床の経験が13年ということですね。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:実は2か月ほど前に福岡県立大学も退職しまして、今は福岡県助産師会にいます。「福岡県プレコンセプションケアセンター」を立ち上げて、コーディネーターをしています。

interviewer:いつ立ち上げをされたのでしょうか?

佐藤繭子さん:2024年4月30日オープンです。

interviewer:立ち上げたばかりということですね。

佐藤繭子さん:そうです。福岡県の事業として行政から助産師会に委託されている形です。少しずつですが、がんばってinstagramもやっています(笑)。ホームページから見てください。                    

interviewer:そうなんですね。「無痛分娩PRESS」のインスタアカウントでもフォローさせていただきます!

佐藤繭子さん:ありがとうございます。

助産師としての心がけとは?

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interviewer:佐藤繭子さんが助産師として働くなかで、現場にいた時も含めて特に力を入れていたことは何でしょうか。

佐藤繭子さん:まず1つ目は、お母さん自身に「産むという気持ち」を持ってもらうことです。私たち助産師に「産ませてもらう」のではなく、お母さん自身が「産んでよかった」とか「私ががんばって産んだんだ」という気持ちになってもらうことです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:私たち助産師は、前に出るべきではないと思っています。お産の場面では、サポーターであって主役はお母さんだから、助産師が「産ませてあげる」という感覚でいてはいけないと思っています。中にはしんどくなって「産ませてください」と言ってしまうお母さんも時々いるので。

interviewer:わかります。

佐藤繭子さん:でもがんばっている。だから、そのお母さんの気持ちを肯定して、一緒にがんばっていく黒子ですよね。

interviewer:お母さんの「がんばる気持ち」が大切なのですね。

佐藤繭子さん:そう。「自分で達成した」とか「自分でがんばって産めたんだ」と思うと、それが自信になる。お産だけでなく、その後の育児のことも私たちはサポートするけれど、いろんなことを解決しているのは自分、選んでいるのも自分だと思ってもらうと「母としてがんばろう」という気持ちが強くなると思います。

interviewer:いわゆる「当事者意識」でしょうか?

佐藤繭子さん:そうですね。母性って授乳したりするとスイッチが入ると言われますが、たぶん産んだというだけではお母さんにはなれない。母親意識も、1つ1つ自覚していくものだと思います。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:だから子どもとの関係やパートナーとの関係の中だけではなく、自分で意識して「がんばっている」とか「私、できてる」ということをきちんと認めてあげることで、自分が母親だと思えるようになっていく。そこを助産師が支えるということですね。

interviewer:あくまでサポートするという。

佐藤繭子さん:はい。知らないことや困っていることに関しては、適切な情報を与えて、より楽な育児ができるようにとか、お母さんにとってよりベストな方向に進むことを助けるようなケアを心がけていました。

interviewer:そうなんですね。

助産師_佐藤繭子さんvol.02」へ続く

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