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2024.08.19
出産や育児を応援するサービス・人々

助産師_佐藤繭子さんvol.02 母乳育児支援の大切さ

出産におけるエキスパートといった印象が強い助産師さん。実は出産時だけでなく、女性の一生のあらゆる場面で寄り添ってくれる女性の健康のスペシャリストでもあります。しかし、妊娠・出産でお世話になる時は、ゆっくりとお話をする機会はなかなかないという方が多いと思います。そこで今回は、大学で教員として看護学生に指導をしていた経験もある助産師の佐藤繭子さんに、ふだん聞けないような貴重なお話を伺いました。

助産師_佐藤繭子さんvol.01 「助産師の仕事とは? 」

からの続きです。

佐藤繭子さんのProfile

看護師として5年間外科系病棟で勤務、助産師として8年勤務後、その経験を生かし、2009年より福岡県立大学看護学部臨床看護学系助手として着任。2011年3月、福岡県立大学大学院看護学研究科修了、修士(看護学)。臨床では母乳育児支援の推進に携わり、母親・医療スタッフへの情報提供や知識の啓蒙に取り組む。母乳育児支援に関する研究だけでなく、性教育(幼児・児童、子を持つ親、成人)にも積極的に取り組んでいる。現在は福岡県助産師会に所属し「福岡県プレコンセプションケアセンター」を立ち上げ、コーディネーターとして働いている。また「国際認定ラクテーション・コンサルタント」の資格を持ち、医療者向けの母乳育児支援のセミナーも開催。

「母乳育児支援」の活動について教えてください。

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佐藤繭子さん:私の研究テーマの1つが母乳育児支援なのですが、「国際認定ラクテーション・コンサルタント」という資格を持っていて、医療者向けの母乳育児支援のセミナーもしています。

※国際認定ラクテーション・コンサルタント(International Board Certified Lactation Consultant: IBCLC)・・・授乳に関する専門知識と技術を持つ専門職。彼らは、母乳育児に関する支援と教育を提供し、授乳の問題や課題に取り組むための専門的なアドバイスを行う。

interviewer:そういう資格があるんですね。

佐藤繭子さん:それは、どんな地域でも、どんな状態のお母さんでも、母乳育児ができるような支援ができるという資格です。例えば、帝王切開のお母さん、「おっぱいをあげたくない」と言うお母さん、癌の治療をしているなどさまざまなお母さんがいる中で、赤ちゃんとお母さんにとってのベストは何かを考えていきます。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:もし治療が最優先だったら、母乳は諦めてもらうこともあります。でも、もしかしたら直接授乳ができなくても、搾乳だったらいけるかもしれないとか、そのお母さんの希望と赤ちゃんの状態と現状と合わせて、一番いい選択を考えて提案しています。

interviewer:決まったパターンがあるわけではないのですね。

佐藤繭子さん:そうです。タイミングによってはベストが毎回変わってくると思います。ただ、母乳育児をしたくない人だけでなく、私たちの不適切な支援によって本当は母乳育児ができたのにできてない人もまだいるのです。

interviewer:どういうことでしょうか?

佐藤繭子さん:例えば、母乳が出るスイッチは、授乳することによってオキシトシンが出て、ホルモンがどんどん出るようになるということですが、始めの段階で体を休ませるなどで授乳を丸一日しなかった場合、その分スイッチが入るタイミングが遅くなってしまうので、母乳の分泌の確立が遅れがちなんです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:それで母乳が出ないというわけではないのですが、最初の3日間に適切な抱き方とくわえさせ方をして、赤ちゃんに飲んでもらうことで、より母乳が出やすくなると言われています。ただ、産後はしんどいから体を休めたいと思う人も中にはいます。

interviewer:確かにそうですね。

佐藤繭子さん:その時には楽な授乳の方法、寝ながら授乳する方法などをその現場で伝えればいいのです。赤ちゃんに優しい病院や施設、助産院は、そういうことをしています。

interviewer:始めが肝心ということでしょうか。

佐藤繭子さん:そう、産んだ当日からです。そういうことをきちんと伝えられている施設で産んだお母さんたちの母乳育児率は90%以上です。でも今の日本の現状では、母乳だけで育てている人は50%ぐらいなんです。

interviewer:実際にお母さんたちの意向はどうなのでしょうか?

佐藤繭子さん:90%以上のお母さんたちは母乳で育てたいと回答しています。ではなぜ母乳だけで育てている人が50%なのかというと、残りの40%は施設での支援の差ということですよね。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:もちろん母乳が本当に出ない人、何らかの病気や、あげられない状況もあるし、母乳が出づらい方もいらっしゃるので、10%くらいは母乳育児が難しい可能性があると言われています。それでも40%の差は大きいし、そこは私たち助産師がもう少しお手伝いできるところだと思いますね。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:もちろん当日から授乳した方がいいのですが、ケースバイケースなところもあって、身体を休ませた方がいい人にまで授乳しましょうとは言っていません。そういう人だったら、例えばスタッフが搾乳をしてあげるとか、代わりの方法はいくらでもあるんです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:でも現場の状況が許さないとか、出産が立て込んでいて見てあげられない、サポートできないといったことは、お産の現場ではありうることかなとは思います。

interviewer:出産が集中する場面は多いのでしょうか?

佐藤繭子さん:計画分娩でない場合に関して言えば、お産は月の満ち欠けとか潮の満ち引きによって、自然に集中するものなのです。ただ、助産師が十分にいるかというと、そうではない施設もあります。なので、母親を取り巻く、医師を含む医療従事者が十分足りていないことも一因だと思っています。

interviewer:そういうことなんですね。

母乳育児支援との出会いは?

佐藤繭子さん提供写真

interviewer:これまでの助産師としてのキャリアの中で、最も影響を受けた経験はありますか?

佐藤繭子さん:やはり母乳育児支援です。助産師学校で勉強はしていたし、母乳が大切とか「こういう風にすると母乳が出るんだよ」ということは知っていたのですが、適切な母乳育児支援は知らなかったです。

interviewer:では、どのように出会ったのでしょうか。

佐藤繭子さん:私が最初勤めていたところは、時間授乳をしていました。3時間おきの授乳で、ミルクを絶対追加するという病院でしたが、最初は他の施設を知らないので、そういうものだと思っていました。

interviewer:確かにそう思いますよね。

佐藤繭子さん:でも、助産師会の勉強会に行った時に、千葉県の母乳率が25%くらいしかなかったので、「50%まで上げましょう」という目標値があったのです。「そんなに低いんだ…」と思って自分の勤める施設について調べたら、やっぱりそれぐらいでした。そこで「お母さんたちの希望に全然沿ってない」と思って勉強し始めて、最終的に「国際認定ラクテーション・コンサルタント」の資格まで取ったということです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:母乳育児支援のことを知る中で、私たちの支援の影響でお母さんたちが困る現状があるということにショックを受けました。

interviewer:そうだったんですね。

佐藤繭子さん:ミルクを足したり、時間授乳したりしている病院や施設は、当時いくらでもあって、それがスタンダードという状況でした。そんな中でも、私たちとは違う支援をしている赤ちゃんに優しい病院が既にあって、そこは母乳率90%だったのです。「なぜこんなに違うの?」「今の支援の何がいけないんだろう」と思って勉強し始めました。

interviewer:一般的に今、母乳でもミルクでもどちらでもいいといった感じはありますが。

佐藤繭子さん:そうなんですよ。お母さんがニコニコ楽しく育児ができていれば、どちらでもいいと思います。でも、お母さんが泣きながら母乳育児をしたり、間違った情報から授乳をやめてしまったり、というのはおかしいと思っています。きちんと情報を知った上で、適切な支援を受けてもらえば、楽にできるのにという想いもあります。母乳だと荷物を持っていかなくてもいいし「いつでもいいよ」と母乳をあげられますよね。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:あと、例えば死亡率が下がるのは発展途上国だけでなく、先進国でも子どもの死亡率が下がったり、病気になる確率が下がったりということは研究データとしてあります。母乳から免疫が赤ちゃんに行くんです。3歳ぐらいまでは、よく熱を出したり風邪引いたりしますよね。

interviewer:確かに。

佐藤繭子さん:今、世界保健機関(WHO)としては、6ヶ月までは母乳だけで育てて、2歳かそれ以上までは離乳食をあげつつ、授乳を続けてくださいと言われています。なぜかというと、自分で十分な免疫抗体を作れるようになるのは、だいたい2〜3歳と考えられていて、それまではお母さんの母乳から免疫抗体をもらって足していく形になっています。

interviewer:そういうことなのですね。

佐藤繭子さん:だから、母乳の子の方がミルクの子よりも病気になりづらいっていうのは、そういう理由があるのです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:母乳のメリットは量依存と言われていて、ミルクとの混合でも長く母乳をあげ続ければ、その分あげる量は増えるじゃないですか。だから1滴でも多く赤ちゃんに母乳をあげれば、含まれている免疫抗体も渡せるのでメリットがあると言われています。

interviewer:量なのですね。

佐藤繭子さん:そういうことも知られていませんよね。ミルクとの混合はすごくめんどくさいのです。哺乳瓶も持ち歩かないといけないし2倍の手間がかかると言われています。だから混合でやっている人はすごいし、本当に尊敬します。

interviewer:もともと免疫という言葉は知っていましたが、ここ2〜3年で「免疫力を上げる」という考え方が急に身近になった気がします。

佐藤繭子さん:コロナウイルスの流行からでしょうね。

interviewer:おそらくそうですね。昔は、赤ちゃんには「栄養」と言われていたから、ミルクを買う時も栄養がどれだけ含まれているかという観点で見ていた気がします。

佐藤繭子さん:確かにそうですよね。あと、母乳のメリットは他にもあって、子どもが病気になっても、お母さんが同じ環境で暮らしているなら、お母さん自身の中で風邪の原因となっている菌の抗体が作られて、母乳を通じて子どもにあげることができるのです。

interviewer:すごいですね!人間って。

佐藤繭子さん:そうなんです。だから母乳の子は風邪も早く治りやすいと言われています。子どもを生かすための上手な仕組みが、母乳育児を通じて自然にできているのです。

interviewer:本当によくできた仕組みですね。

佐藤繭子さん:他にも母乳で育てた子の方が、将来、いわゆる生活習慣病にかかりづらいとか、そういった科学的なエビデンスが蓄積されてきています。でも夜間授乳が大変とか、職場復帰する時に大変だとか、自分だけがずっと授乳をしなくてはいけないのが大変など言われるお母さんがいますが、おそらくそれは母乳が原因ではなくて別の問題ですよね。

interviewer:そうですね。ライフスタイルの問題もある。

佐藤繭子さん:サポーターがいないとか、家の中をワンオペで回さないといけないとか、育児自体の負担が大きいということで、まずは授乳をなくしてしまおうと思う方もおられます。もしそのような状況でしんどいお母さんがいて「もう母乳やめたい」と言われた場合は、その中で何だったらどういうふうに変えられるかを考えます。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:サポーターを頼めないかとか、金銭的な面はどうか、例えば掃除だったら自動掃除機に変えるとか、掃除よりも食事作りの優先順位を上げて掃除の回数を減らすとか、ライフプランの中でできること、できないことを考えつつ、そのお母さんに寄り添った支援をしていきます。どうしても社会的に「母乳vs人工乳」みたいになってしまいますが、そうではないことを強調したいですね。

なぜ「母乳vs人工乳」の論争になるの?

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interviewer:「母乳vs人工乳」の論争がまだ続いていることを育児漫画で読んだことがありますが、どういうことで論争になっているのでしょうか?

佐藤繭子さん:おそらく、お母さんがお互いに責められているように感じているのだと思います。「母乳をあげていないから、かわいそうだと思われている」と人工乳の人は感じている部分がある。そして母乳の人に対して「母乳がいいって押しつけないで」という気持ちもある。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:元々は感情論が入っていて、お母さんとしてのプライドとか、自信みたいなところが揺らぐポイントになっているのだと感じます。年配者の人は「あなた母乳なの?ミルクなの?」みたいなことをすぐ聞くし、「母乳だけじゃない」と言うと「あぁ」って明らかに怪訝な顔をします。

interviewer:「この子かわいそう」みたいな反応ですよね。

佐藤繭子さん:そうなんです。そういうところで「私はがんばっているのに、認めてもらっていない」とか、切ない、辛い気持ちにつながってしまうのではないかと思っています。

interviewer:そうですね。

佐藤繭子さん:また母乳だけで育てているお母さんは、完全母乳ということを「完母」という言い方をするので、それは育児を頑張っている自分を支えている大きいことなのだと思います。でもミルクで育てているお母さんたちにとっては、母乳だけでできなったという挫折感を感じ、傷つけられていると思っておられるそうです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:そうは言っても、本当はお互いにそんな気持ちはないのでしょう。

interviewer:栄養やいろんな面で子どもにとっていいと証明されていて、完全に母乳に軍配が上がっているのに、なぜまだ争いが起きているのかがずっとわかりませんでした。でも今のお話の通りのような気がします。

佐藤繭子さん:色々なお母さんたちのお話を伺うとそうなのだと思います。

interviewer:少し余談になるのですが、日本の戦後とか、もっと遡って戦国時代の話でも「私は母乳が出ないので、どなたか母乳をくださいませんか」ということがありますよね。当時は人工乳もなかったかもしれませんが、効能としては実母には劣るけど、とにかく母乳がいいということだったのでしょうか?

佐藤繭子さん:基本的に母乳としての栄養価は変わらないと思います。ただ、自分の親が子どもにあげるというのは完全オリジナルオーダーメイドになっています。例えば、早産で生まれた場合、その時の母乳はカロリーが高くなるのです。

interviewer:きちんと調整されているのですね。

佐藤繭子さん:そう、早く大きくするために脂肪分も増えていたりして、正期産で生まれた子とは違う成分に変わったりするのです。だからオーダーメイドで、感染の心配も減るということでもちろん実母の母乳がいいのですが、それでも昔は「もらい乳」を本当によくやっていました。母乳が出なかったら、代わりのものは他の人のおっぱいだったので。

interviewer:人工乳はなかったのでしょうか?

佐藤繭子さん:昔の人工乳みたいなものは、ヤギの乳を使っていました。でも人の母乳に比べるとあまりにも成分が違いすぎたので、亡くなってしまう子どもがいたのです。だから、乳母がいたし、出る人のおっぱいをもらって育てるということがありました。もらわなかったら死んでしまうので。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:七五三のお祝いがありますが、それは3歳まで生き延びてくれてよかった、5歳、7歳まで生き延びてよかった、ようやくこれで神様の元から離れられるということだったそうです。3歳までの死亡率が高かったのは、今と衛生状態も違いますが、母乳で免疫をきちんともらえているか、もらえてないかの差もあったと思います。

interviewer:母乳ってすごいですね。

佐藤繭子さん:母乳に関して、私はメリットを知っているから、母乳で育てた方がいいというのはありますが、お母さんを支援する時は、フラットでいないとダメなんです。

interviewer:片寄りすぎてはいけない?

佐藤繭子さん:そうです。母乳が大事と思っていたとしても、中にはあげたくない人もいます。その場合でも、なぜあげたくないのかとか、あげないで子どもが元気に育つためにはどういう方法を取ればいいのかということを考えないといけない立場なので。

interviewer:なるほど。

人工乳について知っておくべきこと。

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佐藤繭子さん:人工乳には、菌が入っているのを知っていますか?

interviewer:え?知らないです。

佐藤繭子さん:人工乳には、今の技術では取りきれない菌が入っているのです。昔で言うサカザキ菌なのですが、クロノバクター・サカザキという。

interviewer:ネットで調べると出てきました。

佐藤繭子さん:このクロノバクター・サカザキは、食中毒になるのですが、ひどいと亡くなる事例があるんです。日本ではあまり表面化していないから、死亡例がないと言われていますが、海外では死亡例もあります。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:だから粉ミルクは無菌ではないです。缶でフタが閉じている状態でも菌はいます。空気中にいるとかではなく、元々製品の中で取り切れないから、密閉されている缶、お店で売っている商品の状態であっても菌がいるのです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:それで適切な人工乳の調乳をしないと、子どもが下痢して、ひどいと脱水になったりして、死んでしまう可能性も。缶の表示で「70℃以上のお湯で調乳して」と書いてありますが、実際にお湯を70℃で調乳してはダメなんです。

interviewer:えっ?どういうことですか?

佐藤繭子さん:なぜかと言うと、ミルクを哺乳瓶に移す段階で、温度が大体10℃下がると言われています。だから80℃以上のお湯で調乳しないといけないのです。昔、電気ポットに70℃設定ってありましたよね?

interviewer:うちのもあります。

佐藤繭子さん:その70℃設定で沸かしたお湯でミルクを溶いたらダメなんです。

interviewer:そうなんだ…。

佐藤繭子さん:ミルクを溶かし切ったときの温度が70度以上です。そういうのを知らないで調乳する方が結構多くて。産んだ後に病院で説明を受けます。基本的に「空気中にも雑菌がいるから、ちゃんと80℃以上のお湯で調乳してね」という風に説明をしていると思いますが、お産の直後で忙しくて、お母さんたちは、覚えていないことも。それでわからなくなって調べたら「70℃以上」と書いてあるから「じゃあ70℃でいいんだな」という感じになる。

interviewer:すごくわかります。

佐藤繭子さん:それだったら100℃の沸騰直後のお湯で溶かして、白湯で薄めた方がまだいいですよね。基本的に成分表は100℃という高い温度で製品のそれぞれの成分の平均値を取っているようです。だからビタミンCとか高温に弱いと言われていますが、そういうことも加味した上での成分表示なので、100℃で溶いても問題はないと言われています。

interviewer:70℃で「オッケー!」という感じでミルクを作っている人は多いと思います。

佐藤繭子さん:70℃調乳の電気ポットは、今も使っている人がいらっしゃるので、多分そういう人はいくらでもいると思います。でも知らないから下痢しても「なんか調子悪いんかな」みたいになって。

interviewer:実は、お湯の温度、ミルクの作り方が原因かもしれないということですね。

佐藤繭子さん:そうなんですよ。確実にきちんと調乳するということも、子どもにとっての安全面では大事になってくる。そういうことは、きちんと乳業会社は教えないといけないですね。

interviewer:確かに。

佐藤繭子さん:あと、人それぞれのベストがあってもいいと思います。母乳で育てた方が楽だし、メリットもいっぱいあるよというのは言いたいけど、同時に母乳だけが全て、絶対ではないということも言いたいですね。

interviewer:みんながベストな方法を実行できるわけではないですもんね。

佐藤繭子さん:本当にそうです。もう母乳で育てるメリットも語り尽くされている。それでもできない人もいるし、やりたくない人もいるというところは、配慮しなければいけないですね。

interviewer:そうですね。

佐藤繭子さん:授乳すると物理的に荷重がかかるから、乳房の形がどうしても崩れてしまいがちです。それが許せないという人もいると思います。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:つまり子どもの栄養よりも「自分」を取る人もいると。立場的にと言う人もいるだろうし、それを第三者が否定することはできない。でも適切な情報をその方にお渡しした上で、その方が選ぶ。こちらは「ベストは何か」というのを選ぶお手伝いしかできないですよね。

interviewer:選ぶのはご自身。

佐藤繭子さん:だからこそ、適切で科学的根拠に基づいた情報提供、そして寄り添いがとても大事だと思います。

プレコンセプションケアって何?

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佐藤繭子さん:出産される方は、妊娠して知識がゼロに近い状態から一気に学ぶわけですが、それにしては学ぶことがかなり多いという印象です。だから男女問わず、事前にこういった情報を半分でも知っていたら、いざ妊娠してもあと半分だからまだ頭に入りやすいのかなと思ったりします。

佐藤繭子さん:そうですね。今、私は「福岡県プレコンセプションケアセンター」にいるのですが、結局、今のお話にもつながるのではないかと思います。

interviewer:「プレコンセプションケアセンター」では何を?

佐藤繭子さん:プレコンセプションケアは、簡単に言えば、妊娠前の健康管理です。産む、産まないにかかわらず、年齢に関わらず、性別に関わらず、からだと心、性の健康を考えるヘルスケアのことをいいます。プレコンと言うと、今なら、妊活とか不妊の支援とか補助金とか、そういうところが検索で引っかかってくることが多いです。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:でも本来の意味で言えば、自分の人生を全うすること。楽しく生きていくためには健康が資本で、健康管理というのがすごく大事ですよね。

interviewer:はい。

佐藤繭子さん:その中で今まで結構ないがしろにしがちだったところ、産む・産まないに関わらず、性の健康に着目してもらう。例えば、月経痛や生理不順をそのまま放置して、月経が来ないからラッキーと思っている女性も結構います。でもそれは体の不調のサインであって、ホルモンバランスが悪いのかもしれないし、何か病気が隠れているのかもしれない。

interviewer:そうですね。

佐藤繭子さん:それを放置していたことで、例えば本当に子どもが欲しいと思った時に、治療から始めなければいけなくなり、結局妊娠が遅れるケースもあります。あとは、妊娠・出産に興味のない人も、男性もプレコンに関係ないというわけではありません。自分の人生のことを考えた時に、妊娠・出産経験のない人は、乳がんや子宮体癌になる確率が上がると知っていれば、きちんと検診を受けるという行動に繋がるかもしれないですよね。また、男性もパートナーとして一緒に性の健康を保つ方法を知っておくことが大切です。

interviewer:今のことだけじゃないということですよね。

佐藤繭子さん:そうです。だから事前に知っておくことはすごく必要で、妊娠してから妊娠後のことを考えるよりは、前もって人生設計をイメージして、これぐらいで産んだらいいかなとか、そのために体を整えていくにはどうしたらいいかなということも考えられるかなと。

interviewer:今日はありがとうございました。母乳の仕組みのすごさや、プレコンセプションケアなど知らないことばかりでした。次回もよろしくお願いします!

佐藤繭子さん:はい。よろしくお願いします。

「助産師_佐藤繭子さんvol.03」へ続く

【前編】

助産師_佐藤繭子さんvol.01 「助産師の仕事とは? 」

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