MENU
2024.10.20
出産や育児を応援するサービス・人々

助産師_佐藤繭子さんvol.03 大学で教える助産とは?

出産におけるエキスパートといった印象が強い助産師さん。実は出産時だけでなく、女性の一生のあらゆる場面で寄り添ってくれる女性の健康のスペシャリストでもあります。しかし、妊娠・出産でお世話になる時は、ゆっくりとお話をする機会はなかなかないという方が多いと思います。そこで今回は、大学で教員として医学生に指導をしていた経験もある助産師の佐藤繭子さんに、ふだん聞けないような貴重なお話を伺いました。

佐藤繭子さんのProfile

看護師として5年間外科系病棟で勤務、助産師として8年勤務後、その経験を生かし、2009年より福岡県立大学看護学部臨床看護学系助手として着任。2011年3月、福岡県立大学大学院看護学研究科修了、修士(看護学)。臨床では母乳育児支援の推進に携わり、母親・医療スタッフへの情報提供や知識の啓蒙に取り組む。母乳育児支援に関する研究だけでなく、性教育(幼児・児童,子を持つ親,成人)にも積極的に取り組んでいる。現在は福岡県助産師会に所属し「福岡県プレコンセプションケアセンター」を立ち上げ、コーディネーターとして働いている。また「国際認定ラクテーション・コンサルタント」の資格を持ち、医療者向けの母乳育児支援のセミナーも開催。

「縁」でつながった大学の仕事

image photo

interviewer:前回も少しお話がありましたが、現場の助産師から大学でお仕事をすることになったきっかけについて、教えてください。

佐藤繭子さん:当初のきっかけは、夫の転勤による福岡への引っ越しでした。

interviewer:そこからどういう経緯で大学に?

佐藤繭子さん:ご縁としか言いようがないのですが「世にも珍しいマザークラス」という講座を福岡県の助産師の方が有志で開催していて、私の地元である千葉県にいる時からその活動の存在は知っていたのです。

interviewer:助産師さんの団体があったということですか?

佐藤繭子さん:そうです。「フムフムネットワーク」という団体で、主催者にたまたま別の講座でお会いする機会があったのですが、その方が福岡県立大学の教授でした。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:それで自分が妊婦になった時に、その教授にお願いして「世にも珍しいマザークラス」に参加させてもらいました。

interviewer:まず当事者として参加されたのですね。

佐藤繭子さん:はい。このマザークラスは、講義形式ではなくてからだで感じてもらうことをメインにしていました。ひとのからだはかしこいから、きちんと向き合えば指導を受けなくても自分で気づける。助産師は妊婦さんの力を引き出すために、サポートするというスタンスです。

interviewer:いわゆる「母親学級」のイメージではない?

佐藤繭子さん:そうです。講座の中では、妊娠中に気づいてほしいことや自分のからだを大切にすること、がんばりすぎているお母さんたちが多いから、自分を癒して認めてあげることなどを言われました。その後の子育てにつながるような話もあって、参加者同士で分かち合うという感じの講座です。

interviewer:今も続いているのですか?

佐藤繭子さん:当時は福岡県立大学がマザークラスを開催していたのですが、主催者が大学を離れたこともあって、今はしていません。でもまた、復活させたいなと思っていらっしゃいます。

interviewer:でもそのマザークラスが大学とつながるきっかけになったわけですね。

佐藤繭子さん:はい。教授が出していたメルマガに「助産師さん、大学院に行きませんか?」と書かれていたんです。その時は職場復帰しようと思っていましたが、研究や教育にも興味を持っていました。マザークラスの同窓会があった時に、思い切って教授に「本当に働きながら大学院に行けるんですか」と聞いたら「行けるよ」と言われて。

interviewer:そこから大学院なんですね。

佐藤繭子さん:そうなんです。それで福岡県立大学大学院の修士課程を受けることにしました。1月に受験のための書類の指導を受けにいった時に、その教授から「就職決まった?」と聞かれて、「まだです」と言ったら「助手の公募があるよ?」と言われたのがご縁です。

interviewer:すごいですね。

佐藤繭子さん:たまたま助手で辞められた方がいたので公募していたようです。就職試験も受けて、修士の入試も一生懸命勉強して、修士課程に合格しました。

interviewer:おぉ、すばらしい。

佐藤繭子さん:そういうことで、その年の4月に大学に就職、同時に大学院生にもなりました。

interviewer:大学でのお仕事は助手から始まったわけですね。

佐藤繭子さん:そうです。最初は助手で入って、そのあと助教になって、 最後は講師で辞めました。

interviewer:では、そのまま大学にいれば教授ということもあったのですか?

佐藤繭子さん:そうですね。ずっと大学の教育に携わるのであれば、今は大学院で博士号を取っているのが前提なのですが、博士課程に行くタイミングがなかなか合わなくて。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:博士課程に行こうと思うと、夫が単身赴任になるという(笑)。でも私も先延ばしにしたかったのでしょうね。とはいえ、助産師の教育がしたいのであれば、博士を取るしかないので、今、博士課程に進んでいます。

interviewer:ちなみに、何年から何年まで大学にいたのですか?

佐藤繭子さん:2009年の4月から2012年の3月までが助手、2012年の4月から2023年の3月まで助教をして、2023年4月から講師になって1年間、それで退職しました。大学教員の役職としては講師のあと、准教授、教授と続くのですが。

interviewer:なるほど。大学ではどんな授業を?

佐藤繭子さん:助産師なので「母性看護学」の授業の補助から講義までしました。私は母乳育児支援が専門だったので、産後の育児支援の部分や、実習前の演習の担当をしていました。例えば、赤ちゃんのお風呂の入れ方だったり、服の着せ方だったり、あとはお産の時の妊婦さんへの痛みを和らげるさすり方だったり、そういう技術的なところです。

interviewer:まさに実践ですね。

佐藤繭子さん:他にも分娩につく時の内診の仕方、赤ちゃんの取り上げ方といったこともありましたが、精神面でのサポートや看護、助産ということも学生に教えていました。ただ大学ではチームで教えるので、常に1人で教えるわけではないのです。

interviewer:そうなんですね。

佐藤繭子さん:講師以上になったら1人でも教えられるのですが、それまでは先生たちが教えているところに一緒にサポートに入っていました。メインで授業をするといっても、サポーターが絶対に必要なので、やはり看護を教えるにはチームが重要でした。

助産師の“プロ意識”とは

佐藤さん提供写真

interviewer: 授業で、特に学生に強く伝えたいと思っていたことはありますか?

佐藤繭子さん:母性看護、助産というのは、幸せなことがメインなのですが、不幸な面も必ずある。なおかつ病気ではない人がほとんどです。

interviewer:そうですね。

佐藤繭子さん:しかもお産自体が大変なことなので、どうしてもマイナスな視点で見がちですが、その人の状態をより良くするためにはどうしたらいいか、つまりウェルネスの視点を大事にした方がいいということを伝えています。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:あとは、お母さんたちの産み育てる力を引き出すということですね。私たちはあくまでサポーターです。メインはお母さんたちで、出産がよかったと思えたり、楽しく育児ができたり、そういうことを言葉がけなどでサポートすることが大事だということです。助産師が「産ませてあげる」わけではないので。

interviewer:そこで助産師の姿勢が問われますね。

佐藤繭子さん:そうです。「私が産ませてあげる」というような助産師にはなってほしくないと思っていました。お母さんたちが少ししんどい状況になった時に「もう産ませてください」と言われても、産ませてはあげられない。

interviewer:確かに。

佐藤繭子さん:あくまで産むのはお母さんたち自身です。でも、しんどい場面でも少しでも楽にしたり、心地いい状況に変えていったり、不安なく産める状況にもできると思うし、それが私たち助産師のいる意味であり、技だと思っています。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:学生には、傲慢な助産師や、ミニドクターみたいな助産師にはなってほしくないという想いはありました。

interviewer:腕がよかったりすると、そうなるのもわかります。

佐藤繭子さん:経過が見えてきて、自分で「こうなるな」と予測も立てられる。技術的なことは、経験を重ねると上手になっていくんです。そこで「私ってすごい」と勘違いする人がたまにいる。

interviewer:そうですよね。

佐藤繭子さん:でも技を磨くことは職業人として当たり前のことなので、それよりもプロ意識を常に持つことですね。もちろん自分自身が楽しく仕事をするのも大事ですが、プロ意識があれば、それで満たされると思うんです。

interviewer:プロ意識ですか?

佐藤繭子さん:「私がやってあげている」という気持ちではなく、お母さん自身が産む力や育てる力、つまり女性の力を信じてサポートできるということです。自身も女性ですからね。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:私たちは黒子なので、学生には「あなたがメインじゃない、お母さんがメインだ」ということは伝えていました。

interviewer:看護学生は、女性の方が多いと思いますが、男性はいましたか?

佐藤繭子さん:今、看護学生の中で男性は1割くらいです。

interviewer:そうなんですね。

助産師業界の課題

image photo

interviewer:今の「助産師の業界」について感じている課題は何でしょうか?

佐藤繭子さん:そうですね。例えば「助産院で自然なお産をしたい」と思ったとしても、社会情勢的にそれが叶わない人もいます。今、産婦人科医が減っているので、助産院に必要な嘱託医が見つからず、開業できないことがあるのです。地域で助産院をしたい人もいると思うのですが、人材の部分では課題がありますね。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:あと、助産師の仕事は本当にいろいろとあって、対象とする年代も内容もさまざまなのですが「助産師って、お産だけだよね」という認知しかないのは課題だと思います。

interviewer:確かに、私も以前は完全にその認識でした。

佐藤繭子さん:そうですよね。もっと助産師の知識や技術を活用してもらえるのではないかと思うんです。お産・産後ケア・育児支援だけではなくて、例えば日頃の健康上の疑問や少し困っていること、セクシャルな話もそう。ちょっと友達には言いづらいけど、助産師であれば言えるというような内容もあると思います。実はその相談窓口があっても全然来ないのです。

interviewer:えっ?そうなんですね。

佐藤繭子さん:今、私は福岡県から助産師会に委託されている事業で、2024年4月にオープンした「福岡県プレコンセプションケアセンター」に関わっています。テレビで告知した時には、少しずつ相談が来たのですが、もう来なくなってしまって。

interviewer:なるほど。助産師さんには産むときだけお世話になると誤解している人が多い上に「助産師」という名前が「出産」のイメージを強調している面もありますね。

佐藤繭子さん:そう。「本当は女性が生まれてから死ぬまで」が助産師の仕事なんですよね。例えば高齢になってから「子宮脱」と言って、過去のお産の影響で子宮の位置が下がってしまうことがあります。それで排尿トラブルみたいなことがあるというのも、本当は産前とか若いうちに知識としてあれば、骨盤底筋群の運動をしたり、産後すぐに重いものをなるべく持たないようにしたりすることで予防できます。でもそういう情報は、提供されないと知らないことも多いので。

interviewer:確かに。

佐藤繭子さん:更年期だけでもなくて、その上の年齢になってから、例えば高齢者施設で70代くらいの男女の恋愛のような話題になると、否定的な考えの人も結構います。でも実際は、性は生まれてから死ぬまでその人に関わるものなので、ゼロということは絶対ないはずなんですよ。

interviewer:なるほど。

佐藤繭子さん:でも、それを違うように捉えられて悩んでいる人もいるので、そういう人にも話はできるし、今やっているような包括的性教育、若い時からの妊活もそう、40~50代のセックスレスの話もできるし、どの年代に対してもずっと性に関わる内容については話せるし、相談にのれるし、サポートできるんですよ。

interviewer:本当に幅広いですね。それなのに相談できること自体が知られていないという。

佐藤繭子さん:そうなんですよ。だからそれを知っているママ友は、相談に来ます(笑)

interviewer:やはり「助産師」という名前が影響していますよね。「助」という漢字も「助手」のようなイメージがあって、看護師の助手で出産に長けている人だと勝手に想像していました。

佐藤繭子さん:実は違うんですけどね。

interviewer:助産師は、看護師になってからさらに資格取得しないとなれない上級職と知った時はびっくりしました。同じように間違ったイメージを持っている人は多いと思います。

佐藤繭子さん:そうですよね。

interviewer:お母さんたちも、助産師の出産以外の仕事について、よくわかっていないことが多いような気がします。でもどの年代でも相談できるのはありがたいですよね。「無痛分娩PRESS」でも助産師さんへのインタビューを通じて伝えていこうと思います。

佐藤繭子さん:ぜひ!よろしくお願いします。

RECOMMEND
おすすめ記事