助産師 立野裕子さんvol.01 _夫が知るべき10のポイント(妊娠中〜出産準備編)
今回お話を伺ったのは、助産師として37年、さらに鍼灸師としても26年のキャリアを持ち、現在は「鍼灸マッサージLuna care」を主宰する立野 裕子さん。順天堂大学病院産科病棟をはじめ数多くの現場で妊婦さんと向き合ってきた経験をもとに、妊娠中・出産・産後を幅広くサポートしてきました。今回はその豊富な経験から「妊娠中から出産準備までの中で夫が知っておくと心強いポイント」について、具体的かつ実践的なお話を伺いました。
【立野裕子さんProfile】

助産師・看護師として37年の経験を持ち、順天堂大学病院産科病棟で9年勤務。その後は中規模病院の産科やクリニックの夜勤専従を経て、数多くの妊婦健診・分娩介助に携わってきた。並行して鍼灸師としても活動し、鍼灸歴は26年。産科クリニックにて16年間にわたり鍼灸外来を担当し、妊娠中・産後の女性の体調ケアを行ってきた。現在は「鍼灸マッサージLuna care」を開業して7年目を迎え、地域の妊産婦ケアを中心に活動を続けている。「夫婦で共に出産に臨む意識づくり」をテーマとした、妊娠・出産・産後を支える取り組みにも力を注いでいる。
①「手伝う」じゃなく“当事者意識”がカギ

interviewer:妊娠がわかったとき、まず夫さんにどんな心構えを持ってもらいたいと感じますか?
立野さん:一番大事なのは「手伝う」という意識ではなくて「自分も当事者なんだ」という意識を持つことなんです。妊娠や出産は夫婦で迎えるものですから、本来は「妻のサポート役」ではなく「一緒に進める立場」なんですよね。
interviewer:なるほど。「妻のことを助ける」ではなく「自分ごととして一緒にやる」なんですね。
立野さん:そうなんです。「家事を手伝う」という表現をよく聞きますが、これって「本来は自分の担当じゃないけれど、代わりにやってあげる」というニュアンスを含んでしまうんです。でも妊娠中は体調が不安定になりやすいですし「夫婦で協力して家を回していく」必要があるんですよね。だから「手伝う」ではなくて「自分が主体的にやる」くらいの意識が大切なんです。
interviewer:確かに「手伝う」って言葉には、“自分の領域じゃないけどやってあげる”みたいな響きがありますね。
立野さん:そうなんです。妊娠中は特に言葉の受け止め方が敏感になります。「手伝おうか?」と聞くよりも「今日は俺がやるね」とか「これ、俺の担当にしようか」と伝えるだけで、妻の感じ方は大きく変わります。そういう小さな姿勢の積み重ねが、妊娠期間を安心して過ごせるかどうかにつながるんですよ。
②感染症&体調管理はパパの責任重大

interviewer:妊娠初期から気をつけた方がいいことは何でしょうか?
立野さん:やはり感染症ですね。妊婦さんは妊娠中、どうしても免疫力が下がりやすい状態になります。普段なら軽い風邪で済むようなことでも、妊婦さんにとっては高熱が出て動けなくなってしまったり、肺炎に進んでしまうリスクもあるんです。特にインフルエンザや新型コロナ、そして風疹などは胎児に影響が及ぶ可能性もあるので注意が必要ですね。
interviewer:なるほど。妊婦さん自身だけではなく、お腹の赤ちゃんにも影響があるんですね。
立野さん:そうなんです。だから妊婦さんだけが気をつけるのではなく、夫さん自身の体調管理がとても大事なんです。特に妊娠後期になると、奥さんは産休で家にいる時間が長くなります。その一方で夫さんは外で仕事をして、電車や職場、取引先など多くの人と接触する。実はこの状況が、一番ウイルスを家庭に持ち込みやすいんです。つまり最大の感染経路になりやすいのは夫さん自身、ということもあるんですよ。
interviewer:それは盲点かもしれません。夫さんが一番の感染ルートになる可能性があるんですね。
立野さん:はい。ですから、帰宅後すぐに手洗い・うがいをする。できればシャワーを浴びてから家族と接触する。飲み会など人が多く集まる場所に行った日は、服や髪にもウイルスが付着している可能性があるので、なるべく早く清潔な状態にしてから奥さんと過ごしてほしいですね。
interviewer:帰宅直後のちょっとした行動でも差が出るんですね。
立野さん:そうですし、ワクチンも大事です。特に風しんワクチンは一度打てば一生安心というわけではなく、効果には期限があります。過去に接種したことがあっても、数年経つと抗体が減っていて十分に守れていないこともあるんです。ですから妊娠がわかった段階で、自分のワクチン歴や抗体検査を確認しておくのが理想ですね。
interviewer:そこまで考えている夫さんは少ないかもしれませんね・・・。
立野さん:でも「自分の体調管理は家族の命を守ることにつながる」と思えば、自然と行動が変わると思います。例えばちょっと喉が痛いと感じたら、すぐにマスクをして別室で休むとか。飲み会の後は帰宅時間を連絡して、奥さんに安心感を持ってもらうとか。小さな行動の積み重ねが夫婦の信頼感につながっていきます。
interviewer:妊婦さんに「気をつけてね」と言うだけじゃなくて、夫さん自身が実際に行動で示すことが大切なんですね。
立野さん:はい。妊娠中の体調管理は夫婦の共同作業です。夫さんが「自分が盾になる」という気持ちを持てると、奥さんもすごく安心できるんですよ。逆に「自分は大丈夫」と過信してしまうと、ちょっとした油断で奥さんを不安にさせてしまうこともある。ですから「自分の行動ひとつで奥さんと赤ちゃんを守れる」という意識をぜひ持ってほしいですね。
③妊娠中の「匂いNG」は想像以上に繊細

interviewer:他に妊娠中に気をつけた方がいいことには、どんなものがありますか?
立野さん:とても多いのが「匂い」なんです。妊娠するとホルモンの影響で感覚が変わるので、普段なら気にならなかった匂いに急に強く反応してしまうことがあります。特に妊娠初期から中期にかけてはつわりと重なって、匂いに対してかなり繊細になる方が多いですね。
interviewer:匂いは大きなポイントなんですね。
立野さん:はい。ただし全員がそうというわけではなくて、ほとんど匂いが気にならない妊婦さんもいます。これは本当に個人差が大きいんです。
interviewer:なるほど、人によって差があるんですね。
立野さん:そうなんです。よく挙がるのは炊きたてのご飯や揚げ物の油の匂い、歯磨き粉の香り、柔軟剤やシャンプーの香料などです。普段は好きだったコーヒーや紅茶の香りが急にダメになる方もいますし、逆に台所の排水口や冷蔵庫を開けたときの独特の匂いに敏感になることもあります。
interviewer:生活のいろいろな場面で影響が出るんですね。
立野さん:はい。そして意外と多いのが、お湯や水の匂いです。お風呂にお湯を張ったときの湯気の匂いで気持ち悪くなるとか、水道水を沸かしたときの金属っぽい匂いが苦手になる方もいます。生活に欠かせないものなので、本人にとってはとてもつらいことなんです。
interviewer:お湯や水まで・・・。それは避けるのが難しいですね。
立野さん:そうなんです。そしてもう1つよくあるのが、夫さんの匂いがダメになるケースです。これは本人にとってもショックですし、夫さんの方も「なんで?」と戸惑うことが多いんですが、あくまで一時的な体の反応であって、決して嫌いになったわけではありません。だから「俺の匂いが嫌いなのか」と受け止めずに「今はそういう時期なんだ」と理解してもらえると奥さんはとても安心します。
interviewer:そういう説明があると、夫さんも落ち着いて対応できそうですね。
立野さん:そうなんです。大切なのは、工夫できるところを少しずつ変えてみることです。例えば香水や整髪料を使わない、無香料の柔軟剤やシャンプーに切り替える、帰宅したらすぐ着替えてシャワーを浴びるなど。ちょっとした工夫で奥さんの負担をぐっと減らせます。
interviewer:夫さんにできることは意外と多いんですね。
立野さん:はい。そして忘れてはいけないのは、匂いの感覚は日によって変わるケースもあるということです。「昨日は大丈夫だったのに今日はダメ」というのは珍しくありません。それを「わがまま」と思わずに「今日はそういう日なんだな」と受け止めてあげること。夫さんが「今日は匂い大丈夫?」と聞くだけでも、奥さんの安心感はまったく違うんですよ。
interviewer:毎日リセットするぐらいの気持ちが必要なんですね。
立野さん:そうですね。妊娠中の匂い問題は人によって全然違いますが、夫さんが柔軟に対応できるかどうかで奥さんの過ごしやすさは大きく変わります。「匂いに敏感になるのはよくあること」と知っておくことが、最初の一歩になると思いますね。
④食べ物の好みは“日替わり”だとイメージしよう

立野さん:妊娠中は食べ物の好みが変わるケースがあります。昨日まで大好きだったものが急に食べられなくなったり、逆に普段はあまり食べなかったものを無性に欲したりする方もいるんです。奥さん自身も「どうしてこんなに変わっちゃうの?」と戸惑うくらいで、コントロールできるものではありません。
interviewer:なるほど。
立野さん:だから夫さんには「全員がそうなるわけではないけれど、好みが日替わりで変わるくらいのこともある」とイメージしておいてほしいですね。それくらい柔軟に考えていると、実際に変化があったときにも落ち着いて対応できると思います。
interviewer:日替わりのように変化する可能性がある、と。
立野さん:はい。例えば「カレーが食べたい」と言っていたから作ったのに、いざ出したら「やっぱり無理・・・」ということも珍しくありません。本人にとっても予想できないことなので「また気が変わったの?」と責められると、すごくつらい気持ちになってしまうんです。
interviewer:それは奥さんも悲しくなりますね。
立野さん:そうなんです。妊娠中は体が勝手に受け付けなくなるだけで、決して意思の問題ではありません。だから夫さんには「そういう日もあるよね」と思って、毎回リセットするくらいの気持ちで接してほしいんです。「昨日は食べられたのに今日は無理」というのはごく普通のことなんですよ。
interviewer:なるほど。じゃあ、夫さんとしてはどう接するのが一番いいんでしょう?
立野さん:一番簡単なのは、事前に「今日は何なら食べられそう?」と聞くことです。その一言があるだけで、妊婦さんの安心感は全然違いますし、余計なすれ違いも防げます。奥さんも「今の自分に合わせてくれているんだ」と思えて、気持ちがすごく楽になるんです。
interviewer:たしかに、ちょっとした聞き方や声かけで印象は変わりますね。
立野さん:はい。逆に「せっかく作ったのに食べないの?」という言葉は禁句です。妊婦さんだって本当は食べたい気持ちがあるのに、体が受け付けなくて仕方なく断っている。そこを理解してもらえるだけで、救われる部分はとても大きいです。
interviewer:なるほど。じゃあ食べられるものが変わっても「そういうものなんだ」と夫さんが気持ちを切り替えて受け止めるのが大事なんですね。
立野さん:そうですね。妊娠中は本当に「日替わりメニュー」みたいに好みが変わることがある。だから「昨日と同じはず」と思わずに、「今日は何がいけるかな?」と楽しむくらいのスタンスで付き合えると、夫婦ともに楽になりますよ。
⑤つわり中は冷たい物・凍らせ食材が救世主

立野さん:つわりの時期は本当に人によって症状が違うんですが、多くの妊婦さんが共通して「食べたいのに食べられない」「何を食べても気持ち悪くなる」というつらさを抱えます。そんなときに意外と救世主になるのが、冷たい物や凍らせた食材なんです。
interviewer:冷たいものが良いんですか?
立野さん:はい。温かい食べ物はどうしても匂いが立ちやすくて、それがつわりを悪化させてしまうことがあります。でも冷たいものなら匂いが少なく、口当たりもさっぱりしているので受け入れやすいんです。例えば、ゼリーを凍らせてアイスのようにして食べる。食欲がなくても少しずつ口にできますし、水分補給にもなります。
interviewer:それなら試しやすいですね。
立野さん:そうなんです。果物もおすすめです。ブドウやイチゴ、スイカなどを冷やしたり、凍らせておくと、サッパリして食べやすいという声が多いです。甘さと酸味のバランスが良い果物は、つわり中の強い味方になります。
interviewer:果物なら栄養面でも安心ですね。
立野さん:そうですね。もちろん食べすぎには注意が必要ですが「今これしか食べられない」という時期には、食べられるものを口にできることが何より大事なんです。
interviewer:なるほど。
立野さん:それから、冷たい麺類も役立ちます。そうめんや冷やしうどんは喉ごしが良くて食べやすい。ただし、茹でるときの湯気や匂いがダメな方も多いので、ここは夫さんの出番ですね。調理を担当してあげるだけで奥さんはずいぶん楽になりますし、「気を遣ってくれている」と感じられること自体が支えになるんです。
interviewer:なるほど。食材そのものだけじゃなく、作るときの工程もポイントなんですね。
立野さん:はい。そして冷たいものは保存がきくのも助かります。ゼリーや冷凍フルーツはストックしておけるので、「今日は食べられるかな?」と思ったときにすぐ試せる。妊婦さんにとって「選択肢がある」ということが大きな安心感になるんです。
interviewer:確かに、ストックがあるだけで気持ちが違いますよね。
立野さん:そうなんです。だから夫さんには「食べられるものリスト」を一緒に作って、冷蔵庫や冷凍庫に常備しておくことをおすすめします。「食べられないときの保険」があると、妊婦さんはとても安心できます。つわり中は本当に先が見えず不安になりやすい時期ですが、冷たい物や凍らせ食材が小さな希望になってくれるんですよ。
⑥重い物・危険な家事は夫の出番

立野さん:妊娠中に気をつけたいのは、やっぱり重い物を持つことや危険の伴う家事を避けることです。普段なら何でもないような作業が、妊婦さんにとってはリスクになるんですよね。お腹が大きくなるとバランスを崩しやすくなりますし、腰や背中に負担もかかります。無理に動くことで転倒や切迫早産のきっかけになることもあるので、ここは夫さんの出番なんです。
interviewer:具体的には、どんな作業が危ないのでしょうか?
立野さん:まず分かりやすいのは買い物の荷物ですね。サラダオイルやお米、ペットボトルの飲料などは数キロ単位になりますし、それを持って階段や段差を上り下りするのは本当に危険です。妊娠中の体にとってはちょっとした重さでもお腹への圧迫や腰痛につながります。だからこそ、買い物の荷物運びは夫の担当にしてしまうのが安心です。
interviewer:たしかに。日常の買い出しでも意外と重いものって多いですね。
立野さん:そうなんです。そこで役立つのがネットスーパーや生協の宅配サービスです。重たい物を玄関まで運んでくれるので、妊婦さんが無理して持ち帰る必要がなくなります。夫さんの帰宅が遅い家庭でも安心ですし、買い物の回数を減らせるので体の負担も減ります。こういうサービスを「うちの暮らしのルール」として早めに取り入れておくのも大事な工夫です。
interviewer:なるほど、サービスを活用するのも1つの手なんですね。
立野さん:はい。そして買い物以外でも、家の中の掃除には意外と危険が潜んでいます。例えば高い場所のホコリを取ろうとして椅子や踏み台に乗る。これが転倒リスクにつながります。窓拭きやカーテンの取り外しもバランスを崩しやすいですし、前かがみで床を拭いたり雑巾がけをしたりするのも、お腹が大きくなると腰や骨盤に負担がかかります。さらに浴室の掃除は床が滑りやすく、妊婦さんにとっては大きな危険です。
interviewer:なるほど。家事の中でも特に注意が必要なところがあるんですね。
立野さん:はい。特に妊娠後期になると、奥さんは家にいる時間が長くなりますし「赤ちゃんを迎えるから部屋をきれいにしたい」という気持ちが強くなって、普段より掃除に熱心になりがちです。でもその「きれいにしたい」という気持ちが裏目に出て、無理をして高い所に手を伸ばしたり、重い掃除機を引きずって部屋中を動き回ったりすることがあるんです。だからこそ、高いところや滑りやすい場所の掃除は最初から夫の担当と決めておくくらいが安心です。
interviewer:決め事にしてしまうと、奥さんも「やらなきゃ」と無理しなくて済みそうですね。
立野さん:その通りです。妊婦さんに「無理しないでね」と声をかけるだけでは不十分なんです。行動に移さなければ、妊婦さんは「でもやらなきゃ・・・」と自分を追い込みやすい。だからこそ、夫さんが率先して動いて「ここは自分の担当」と言ってくれることが大切なんです。
interviewer:なるほど。リスク管理の一環として、家事を分担するんですね。
立野さん:まさにそうです。重い物や危ない作業を引き受けるのは、単なる家事の分担ではなく、母子を守るためのリスクマネジメントなんです。夫さんが動いてくれることで、奥さんは安心して日常を過ごせますし「守られている」という実感が精神的な安定にもつながります。妊娠中の家事は「できる・できない」ではなく「やっても安全かどうか」で考えることが大事。その視点を夫さんが持つことが、妊娠生活を支える大きな鍵になりますね。
⑦模様替えや家電見直しは妊娠中に済ませよう

立野さん:意外と見落とされがちなんですが、模様替えや家電の見直しは妊娠中に済ませておくことがとても大事なんです。
interviewer:えっ、そうなんですか? 出産後でも間に合うイメージでした。
立野さん:出産後は赤ちゃんのお世話で生活リズムが乱れますし、外部の人が家に出入りするだけでも大きなストレスになるんです。例えばエアコンの設置工事や冷蔵庫の搬入で作業員さんが来ると、その音や人の気配でやっと寝た赤ちゃんが起きてしまう。そうなると、寝不足の母親にとっては大きな負担になるんですよ。
interviewer:なるほど・・・たしかに赤ちゃんが寝たばかりのときに工事の音がしたら、親も赤ちゃんも大変ですね。
立野さん:そうなんです。だからこそ、エアコンの掃除や買い替えは妊娠中に済ませておくべき代表的な作業です。産後は室温管理がとても大切ですし、カビやニオイのあるエアコンをそのまま使うのは不安です。スプレー洗浄では薬剤が残るリスクもあるので、業者による分解洗浄を妊娠中に依頼しておくのが安心ですね。
interviewer:エアコンは本当に生活必需品ですもんね。他にも見直した方がいい家電ってありますか?
立野さん:あります。まず冷蔵庫です。赤ちゃんが生まれると作り置きや冷凍ストックがどんどん増えるので、冷凍庫はすぐいっぱいになります。今のサイズで不安なら、一回り大きい冷蔵庫にするか、サブの冷凍庫を追加するのも良いですね。
interviewer:たしかに子どもが生まれると冷凍庫はめちゃくちゃ使いますね。
立野さん:それから洗濯機も大事です。ガーゼ、スタイ、肌着・・・赤ちゃん関連の洗濯物は本当に増えます。乾燥機能や槽洗浄のしやすさを考えておくと、産後の負担が大きく減ります。さらに浄水器やウォーターサーバーを導入するなら妊娠中がベストです。設置工事や定期的なボトル受け取りは産後には大きな手間になりますからね。
interviewer:確かに、設置や工事って人が出入りしますもんね。
立野さん:そうなんです。だから「業者さんが家に入るような作業は出産前に終わらせる」を合言葉にしてほしいです。
interviewer:模様替えについてはどうでしょうか?
立野さん:模様替えも妊娠中にやっておくと安心です。妊娠後期になると奥さんは家にいる時間が長くなり「赤ちゃんを迎えるから部屋をきれいに整えたい」という気持ちが強くなります。でもそこで椅子に乗ってカーテンを外したり、重い家具を動かしたりするのは危険です。高い場所や重い家具の移動は夫さんの担当と最初から決めてしまうのが良いですね。
interviewer:なるほど。
立野さん:それに、模様替えには「空間を安全に整える」という意味だけではなく、2人だけの大人の空間から、赤ちゃんのいる“家族の空間”に切り替えていくという大切な意味もあります。家具の配置を変えたり、必要なベビーグッズを置く場所を決めたりすることで「赤ちゃんを迎える準備ができてきた」と夫婦で実感できるんです。
interviewer:ああ、それはすごく素敵ですね。模様替えが「家族としてのスタートラインを切る儀式」みたいに聞こえます。
立野さん:まさにそうなんです。だからこそ、夫さんが主導して一緒に空間を作り変えていくことに意味があります。模様替えを通して「これからは家族として一緒にやっていくんだ」という意識を持てると、妊娠中の奥さんもすごく心強いと思いますよ。
⑧出産バッグは夫婦で一緒に準備しよう

立野さん:出産準備の中で大切なのが、出産バッグの準備です。バッグを用意すること自体は多くの方が意識されていますが、本当に大事なのは夫さんも一緒に準備することなんです。
interviewer:妻さん任せにしちゃいそうですが、一緒に準備することが大切なんですね。
立野さん:出産は必ずしも予定通りには進みませんし、突然の入院や陣痛で急いで病院に行くケースもあります。そのときにバッグを持っていくのは夫さんの役目になることが多いですよね。だからこそ、中身を一緒に確認しておかないと、必要なものを探せなくて慌ててしまうんです。
interviewer:たしかに・・・「バッグはあるけど、どこに何が入ってるの?」って状況はありそうです。
立野さん:そうなんです。例えば母子手帳や診察券、保険証などはすぐに取り出せるところに入れておく必要がありますし、分娩に必要なグッズと入院中に必要な生活用品は分けておく方がスムーズです。特に、産院から指定されている持ち物は、夫婦で一緒に確認して準備しておくと安心です。
interviewer:指定されているものまで夫婦で確認しておくのはいいですね。
立野さん:はい。そして持ち物の中には「ペットボトル用のストロー」や「スマホの充電器」といった細かいけれど大事なものもあります。
interviewer:「ペットボトル用のストロー」はなぜ大切なんですか?
立野さん:ペットボトル用のストローは、陣痛や分娩中に横になったままでも水分補給ができるのでとても便利なんです。出産後にも疲れていて起き上がるのが億劫な時に活躍してくれます。
interviewer:つい普段の状態で考えてしまいますが、産後は子どもを生んで疲れ切った後ですもんね。
立野さん:スマホ充電器は普段使っているものしかないことが多いので、忘れずに当日バッグに入れられるように「当日入れるものリスト」を作っておくのがおすすめです。入院が先になって後日荷物を届けるときも、追加を忘れないようにバッグの持ち手にメモをつけておくと安心ですよ。
interviewer:なるほど。準備の工夫があると、いざというときに慌てずに済みますね。
立野さん:そうなんです。それに、一緒に準備することで「出産は妻だけのことじゃなくて、2人で臨むことなんだ」という気持ちを夫さんも持てるようになります。奥さんが「これはあった方が安心かな」と考えて入れるグッズを、夫さんが一緒に見ながら「へえ、こういうものも必要なんだ」と知る。それ自体が学びになりますし、準備が進むごとに「本当にもうすぐ赤ちゃんに会えるんだ」と実感が湧いてきます。出産バッグは、物の準備というより心の準備を夫婦で一緒に整えるプロセスでもあるんです。
⑨10か月以降は“待機モード”で全集中

立野さん:妊娠10か月に入ったら、夫さんはぜひ“待機モード”に入る意識を持ってほしいですね。もういつ陣痛が始まってもおかしくない時期ですから「今週かもしれない、今日かもしれない」という緊張感を持って過ごすことが大切です。
interviewer:待機モード・・・なるほど、ちょっと特別な時期なんですね。
立野さん:そうなんです。普段なら「今日は飲み会があるから遅くなるね」で済むかもしれませんが、臨月に入ってからはそういう外出は極力控えてほしいです。もちろん仕事の都合もあるとは思いますが、夜遅くまで飲んで連絡が取れないというのは絶対に避けたいですね。
interviewer:たしかに、陣痛が来て連絡が取れなかったら大変ですもんね。
立野さん:はい。実際に「夫が飲み会で連絡が取れなかった」というエピソードはよく耳にします。奥さんにとっては命がけの瞬間ですから「どうしてそばにいなかったの?」という気持ちになるのは当然です。正直、ここでのミスは冗談では済まされません。下手をすると一生言われ続けることになります(笑)。それくらい大事なタイミングなんです。
interviewer:なるほど・・・冗談っぽいけれど、実際にありそうですね。
立野さん:そうなんです。だからこの時期は「自分に与えられたミッションは“すぐ動けること”」だと考えてほしいですね。待機モードというのは、ただ家でじっとしていればいいという意味ではありません。常にスマホを持ってすぐに対応できる状態にしておく、夜は飲酒を控えて車を運転できるようにしておく、職場にも「そろそろ出産なので呼ばれたら抜けるかもしれません」と伝えておく・・・そういう事前の段取りがすごく重要です。
interviewer:なるほど、それなら夫さんも「自分にできる準備がある」と前向きに考えられそうですね。
立野さん:はい。臨月の奥さんにとって「夫が待機モードに入ってくれている」という安心感は本当に大きいんです。出産はタイミングを選べませんから、夫さんの「いつでも動ける」という姿勢が何よりの支えになりますよ。
⑩破水対応には“ペットシーツ”が最強

立野さん:出産が近づくと気をつけたいのが破水です。陣痛の前に突然破水する方もいれば、陣痛の途中で起きる方もいます。量も本当に人それぞれで、ちょろちょろと少しずつ出る場合もあれば、一気にドッと出る場合もあるんです。
interviewer:そうなんですね。なんとなく映画やドラマのイメージだと、ドバーッと一度に出る印象でした。
立野さん:実際にはいろんなパターンがあるんですよ。そしてそのときに役立つのがペットシーツなんです。これが本当に便利で、シーツや布団が汚れるのを防いでくれます。
interviewer:ペットシーツ! それは盲点ですね。
立野さん:そうなんです。例えば寝るときに敷いておくと安心ですし、車で病院に向かうときに座席に敷いておくのもおすすめです。ここは実はとても大事で、タクシーを利用する場合はシートを汚すと清掃代を請求されることがあるんです。自家用車でも、一度破水の液で濡れると匂いが残ってしまい、後で掃除に相当苦労することもあります。車で病院へ行く予定のあるご家庭なら、あらかじめ車に数枚積んでおくと安心ですよ。
interviewer:なるほど・・・それは備えておくと安心ですね。
立野さん:はい。たまに「レジャーシートで代用できるんじゃない?」という方もいるのですが、あれは吸水性がないので液が広がってしまい、逆に服やシートまで濡れてしまいます。結果的に意味がなかった、というケースもあるんです。だからきちんと吸水できるペットシーツを用意しておくことが大事なんですよ。
interviewer:確かに、レジャーシートは水をはじくだけですもんね。
立野さん:そうなんです。しかもペットシーツはドラッグストアやネットで1000円ちょっとで手に入りますし、数年はもちます。特別な負担なく準備できるので安心です。もしペットを飼っている友人がいたら「何枚か売ってもらえない?」と頼むのもひとつの手ですし、数枚あれば十分役立ちますからね。
interviewer:準備が気軽にできるのはありがたいですね。
立野さん:はい。そして何より便利なのは、産後にも使い道がたくさんあるということです。赤ちゃんのおむつ替えのときに下に敷けば布団が汚れませんし、子どもが少し大きくなったときのおねしょ対策にも使えます。体調を崩して寝ているときに嘔吐したときにも重宝します。しかも、もし結果として使わなかったとしても、ペットを飼っている友人に譲れば喜ばれます。だから無駄になることがないんです。
interviewer:なるほど! 出産前後を通して、すごく安心できるアイテムなんですね。
立野さん:まさにそうです。破水は予測できないからこそ「備えがある」ということ自体が安心感になります。ペットシーツは意外と知られていないけれど、実は出産準備で最強のアイテムなんですよ。
妊娠生活のキーパーソンは、実は夫なのです

いかがでしたでしょうか。妊娠期の女性は体調や気分が日によって大きく変わり、思っている以上に不安や負担を抱えています。夫さんも毎日の仕事に追われて、疲れて帰宅することも多いと思いますし、心身ともに余裕がなくなる時期もあるでしょう。また、ご自身の体に変化が起こるわけではないため、当事者意識を持つのが難しいと感じることもあるかもしれません。
それでも、ちょっとした行動や声かけで「寄り添ってくれている」と伝われば、奥さんにとっては何よりの安心になります。今回ご紹介した10のポイントは、どれも大きな負担ではなく、意識を少し変えるだけで取り入れられることばかりです。夫さんが「自分も一緒に歩んでいるんだ」という気持ちを持って寄り添うことで、妊娠生活はぐっと温かく、心強いものになります。出産は夫婦にとって大きな節目。ぜひこの機会に、できることから1つずつ取り入れてみてください。