助産師・千葉県Mさんの無痛分娩体験談/鎌ヶ谷バースクリニック
ご自身が助産師という、いわば「お産のエキスパート」であるMさん。Mさんは2人のお子さんを無痛分娩で出産されたそうです。助産師であり2人の無痛分娩体験者であるMさんにお話をお伺いしました。
基本data
■name/Mさん
■年齢/妻_33 夫_27
■お住まいのエリア/千葉県船橋市
■家族構成/夫+妻+子ども(2名)
■出産施設/鎌ヶ谷バースクリニック
■無痛分娩回数/2回
■出産費用総額/出産基本費用+約15万円(無痛費用10万円+個室料金)-42万円(出産一時金)
■無痛分娩実施時期/1回目:2018年 2回目:2019年
取材時期:2021年8月
事前に病院の先生の評判を聞けたから、無痛分娩を希望
interviewer:まずは無痛分娩を初めて知ったきっかけを教えて下さい。
Mさん:私は現在、助産師になって10年目なのですが、無痛分娩は当時学生だった頃の学習過程で知りました。
interviewer:その時の印象はどういうものだったんですか?
Mさん:ちょうど私が学生の頃くらいから少しずつ無痛分娩が増えてきまして、勉強はしました。ただ、無痛分娩に対応している病院や、無痛分娩を経験している人は周りにいませんでした。だから、興味はあったのですが、正直自分が無痛分娩で子どもを産むとは思っていませんでした。
interviewer:その後、無痛分娩を選ばれたそうですが、妊娠されてから無痛分娩にしようと思われたのは、どういった経緯があるのでしょうか?
Mさん:今回取材のお話をいただいてから思い返したんですが、きっかけというきっかけはあまり思い浮かばなくて……。妊娠をした時に、出産は実家の近くでと思っていまして、その時ちょうど千葉県鎌ヶ谷市に「鎌ケ谷バースクリニック」が開院したんですね。初めは「近くに新しい病院ができたんだな」と思っていたんですが、後で無痛分娩に対応していることを知りました。それで「鎌ケ谷バースクリニック」」で無痛分娩をすることにしました。
interviewer:ではご実家が「鎌ヶ谷バースクリニック」に近かったということなんですね。
Mさん:はい。実家の近くで出産するところを探した時に、無痛分娩に対応している病院があったという感じで、もともと「無痛分娩で出産しよう」と思って選んだわけではないです。ただ、私が都内で助産師として働いていた時に「鎌ヶ谷バースクリニック」の先生と一緒に働いたことがあるという知り合いがいたんですね。その方から「鎌ヶ谷バースクリニック」が麻酔による無痛分娩を多くこなしているというお話を聞きました。無痛分娩は当時、死亡事故などもあって、やはり懸念する意見も多かったのですが、知り合いから「鎌ヶ谷バースクリニック」は無痛分娩の経験がたくさんおありだと聞いたので、最初から無痛分娩を希望しました。もし、その話を聞くこともなく「無痛分娩に対応していますと謳っているだけの病院」という印象だけだったら、安全が担保されているか不透明ですので、無痛分娩は選んでいなかったですね。
interviewer:他に情報を調べるなどはしたんでしょうか?
Mさん:先ほど言ったように学生の頃に学習したほか、ちょうど妊娠した頃に大学院に通っていまして、もう1回無痛分娩について講義を受けるタイミングがあり、そこで詳しくお話を聞きました。
interviewer:ちゃんと専門家である先生にお話を聞けるのは貴重ですね。
Mさん:「インターネットとかで一般的な情報を調べただけ」ではなく、詳しく大学の先生から聞いたというのが、私の中では大きかったです。そこで安全性やリスクなど、いろいろ聞いていたので、おそらく一般の方より良いところも悪いところもわかった上で選べたんじゃないかと思います。
interviewer:確かに、専門家から教わるというのは最も良い情報の取り方ですね。
Mさん:それと「鎌ケ谷バースクリニック」の妊婦健診で、先生からいろいろと教わることもありました。
interviewer:今お子さんはお2人いらっしゃると聞いています。お2人とも無痛分娩で出産されたんですか?
Mさん:そうです。
interviewer:最初の無痛分娩は何年前ですか?
Mさん:ちょうど3年前くらいですね。
interviewer:無痛分娩に決める際、旦那さんやご両親に話をした時のリアクションは覚えていますか?
Mさん:私が助産師をしていたこともありまして、反対されるようなことはなかったです。特に夫に関してはかなり好意的で「痛くない方法があるならその方がいいんじゃないか」という風に言ってくれました。
interviewer:それは助かりますね。
Mさん:仕事柄、他の妊婦さんにいろいろとお話を聞けるのですが、旦那さんがお金のことを言ったり「それで本当にいいのか?」と言ったりして、反対する人も結構多いなという印象がありました。ですが、私の場合はそういった否定もなく、肯定的にとらえてくれたので、あっさり決めた感じです。
interviewer:Mさんは助産師として出産に関する知識も豊富ですし、無痛分娩についての情報も色々とお調べになったと思います。それでもご自身が出産するまでに不安に思うことはあったのでしょうか?
Mさん:元々無痛分娩にするつもりはなかったので、麻酔が効かなかったら嫌だなとか、そういうことを不安に思うことはまったくありませんでした。麻酔が効かなかったら自然分娩にすればいいなと。ただ、事故や副作用についても知っていたので、死亡事故に対する不安はありました。また、針を刺すというリスクに関しても、多少不安はありましたね。
あっという間に出産できて、副作用もない、理想的な無痛分娩でした
interviewer:出産当日はどんな心境だったんでしょうか?
Mさん:もともと日にちを決めて入院しようと思っていたのですが、上の子も下の子も予定日よりも前に陣痛が起きて、病院に向かいました。私自身そんなに痛みに弱くなかったり、先生と何度も外来で話をしたり、さらに2人目に関しては、1人目からそれほど間隔をあけることなく出産というタイミングだったので、それほど緊張することはなかったかなと思います。
interviewer:病院に到着されてから出産されるまで、だいたいどれくらいの時間がかかりましたか?
Mさん:促進剤を使用したこともあって、私の場合はかなり早くて、病院に着いてからだと1人目は7時間くらいで、2人目は2時間くらいです。
interviewer:お2人目はかなり時間が短いですね。痛みなどはあったんでしょうか?
Mさん::ゼロでした。
interviewer:麻酔の効きが悪いということなどもなかったんですか?
Mさん:まったくありませんでした。一般的には吐き気や、血圧が下がるなどの副作用もありますが、そういった症状もほとんどありません。本当に快適で、痛みだけを取り除いていただいた感覚です。しかも、あれよあれよという間に産まれたので、本当にラクだなという印象でしたね。
interviewer:無痛分娩が終わってから、麻酔が切れるまではどれくらいの時間がかかったんですか?
Mさん:分娩が終わって、麻酔を入れてから切れるまでは、個人差はありますが数時間です。私も産んでから2時間ほど分娩室で休んで、部屋に戻る頃には痺れなどが抜けていました。その後は歩いてお手洗いに行けるくらい何事もなかったです。
interviewer:予定通り、スムーズにいったんですね。麻酔が切れたら痛みが出るといったことはあるんでしょうか?
Mさん:産後の子宮収縮にともなう痛みである後陣痛(コウジンツウ)がありました。陣痛から続く出産の痛みがまったくなかった分、痛いのにまるで慣れていない状態で出産後の子宮の収縮の痛みが来たので、本当に後陣痛(コウジンツウ)は辛かったです。
interviewer:自然分娩で出産した人だと、陣痛に比べたら後陣痛(コウジンツウ)はそれほど苦にならない場合があるかもしれない、ということなんでしょうか?
Mさん:そうかもしれません。自然分娩だと出産の際に裂ける痛みや傷口を縫った痛みがあり、後陣痛(コウジンツウ)はそれらに比べたら、とおっしゃる方が多いんですが、無痛分娩だと出産の痛みがまったくないので、麻酔が切れてからすべての痛みがやってきます。そこは辛かった記憶がありますね。
interviewer:無痛分娩自体に痛みがないことはわかりました。ちなみに、子どもが産道を通るような感覚はわかるんでしょうか?
Mさん:私の場合は、本当に痛みがないだけで、お腹が張るのもわかりました。あと仕事柄、こういう感覚になったらお産が進んでるなというのもわかるので「いきなり進んだな」とか「頭がハマってきたな」とか、そういうのも全部わかりましたね。
interviewer:今この状況なんだということが逐一わかったわけですね。
Mさん:そうですね。あと、出産当時はまだコロナ前で、立ち合いができたので、夫もいましたし、2人目の時は娘も一緒に分娩室に入ったんですけど、痛くはないので、しゃべったり、テレビを観たりできるくらいの感じでした。出産時もケラケラと笑ってましたし。
interviewer:出産が終わってからの流れについて教えて下さい。分娩室を出て、病室に戻って過ごすんでしょうか?
Mさん:そうです。私の場合は出産自体がスムーズだったこともあり、お下(オシモ)がほとんど切れなかったんですよ。ですから傷口を縫う時間もかなり短く、その痛みもなかったので、あっという間に病室に戻りました。その後は、疲れてもいなかったので暇だな~と思いながら過ごしてました。産後だからといって体力的にぐったりするようなこともなく、2人目の時は上の子がいることもあって、3日後には退院して家に帰りました。
※お下(オシモ)・・・看護用語で陰部のこと。
interviewer:早いですね。
Mさん:体感としてはもう翌日には帰りたいくらいでした。1人目は後陣痛(コウジンツウ)が辛くて一晩休みましたが、2人目は15時くらいに出産して、その日の夜から授乳できる余裕もありました。
interviewer:無痛分娩とはいえ、産後の体はダメージを受けていると聞きます。そういったダメージを感じることもなかったんですか?
Mさん:するっと出産したので特には感じませんでした。無痛分娩の場合、お産が長くなったり、吸引分娩になったり、あるいはお下(オシモ)の傷が深くなってしまったりすることがあるんですが、ありがたいことに私はそのようなこともなく。
interviewer:理想的な感じですね。
Mさん:そうなんですよ。3回くらいイキんで産まれるし、産後歩いた時も骨盤がちょっとぐらつくくらいですし、出血も少なかったので、2人目の時は出産後に夜ご飯を食べて、コーヒーを飲んで、授乳させてましたね。
ドラマ『逃げ恥』の誤解。無痛分娩に対して、適切な情報にアクセスできるようになるとうれしい。
interviewer:無痛分娩を経験して、どんなところにメリットを感じましたか?
Mさん:妊娠中のメリットで言うと「陣痛に耐えられるかな?」とか、そういうお産に対する恐怖がないので、出産に対するネガティブなイメージが消えて、前向きに出産に臨めるのかなと思いました。陣痛ってやはり未知の痛みですし、経験した人でも「もう嫌だ」って言うくらいの痛みですので。
interviewer:本当に未知ですよね。
Mさん:出産の時はもちろん痛みがないことと、副作用もなかったのは良かったです。なかには嘔吐しながら出産する方もいて、そういう方は辛いのかなと思います。ただ、それでも痛みがないというのは大きなメリットでしょう。さらに、産後にある程度体力を温存できるというのはかなり大きなメリットだと感じました。出産がゴールではないので。
interviewer:嘔吐しながら出産というのは、麻酔の副作用によるものなんですか?
Mさん:そうですね。そういう方が一定数はいらっしゃいます。麻酔が効きやすい方もいて、麻酔の量を調整してもどうしても強く副作用が出てしまうこともあります。もちろん、助産師や医師がいつも相談しながら対応してはいるんですけど、防げないケースはありますね。
interviewer:出産してから感じたデメリットはあるんでしょうか?
Mさん:自分の体験で言えば、麻酔による副作用もなく、出産の時間もかからなかったので、デメリットは感じていません。助産師目線で、いろいろな妊婦さんを見ていると、ひとつはやはり金銭的な部分ですね。
interviewer:費用が自然分娩よりもかかりますよね。
Mさん:それで諦める方もいるんですよ。本当は無痛分娩にしたいんだけど、10万円前後プラスでかかるので、旦那さんや親から「お金をかけてまで」って言われることもあるそうです。無痛分娩がある程度お金がかかるというのは、妊婦さんからしたらひとつのデメリットなのかなと思います。
interviewer:親が負担してくれてもいいような気もしますが……。
Mさん:そうですよね。ただ、私たちの親世代だと無痛分娩を経験した人はほとんどいませんし、どうしても日本人特有の「痛みあってこそ出産」という偏見があります。以前、私が担当した妊婦さんの中には「親や義理の両親には無痛分娩にしたことを黙っていてほしい」とおっしゃる方もいました。そういう意味では、無痛で出産することに対して、周囲に遠慮しちゃう方はいらっしゃるのかなと。
interviewer:Mさんの周り、例えばご友人とかで無痛分娩をされた方や、これから出産する方はいらっしゃるんですか?
Mさん:私が無痛で出産したために「無痛どうだった?」と聞かれることはあります。やはりみんな興味があるんですよね。ただ、事故があったり、本当に麻酔が効くのか疑問があったりとか、そういうところが不安要素としてあるようです。しかも、経験者の生の情報がなかなか届きにくいと感じています。
interviewer:そうですよね。そのために「無痛分娩PRESS」は体験者の方の記事を充実させていこうと思っています。
Mさん:だから私の場合は、友人や親戚に自分自身の無痛分娩の体験を話しました。そうすると「無痛分娩には興味があるんだけど、自分が出産する病院では対応していない。本当は無痛分娩にしたかった」という人もいましたね。
interviewer:やっぱり「本当は無痛分娩したかった」という層もけっこういらっしゃるんですね。
Mさん:また、一般的な無痛分娩の方法とか、副作用とかはある程度インターネットでも情報を拾えると思います。ですが、実際に病院で無痛分娩を選択するとなった時には、どうスタートするのかなど、直接病院に行って、その病院のスタッフさんや先生に聞かないとわからないので、結局最後まで無痛分娩にするかどうか迷う方もいらっしゃいます。
interviewer:そうですね。細かい部分は病院によって色々違いますもんね。
Mさん:はい。病院によって無痛分娩の方法と言いますか、過程にばらつきがあります。最近よく妊婦さんがおっしゃるのが、2021年のお正月に放映されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!』です。主人公のみくりちゃんが無痛分娩で出産しているのですが、お産がある程度進んで子宮口が開いてきてからじゃないと麻酔をしないという病院の設定で、痛くなってから「そろそろ麻酔を入れよう」というシーンがあるんですね。みなさん情報をお持ちでない分「無痛分娩ってあのやり方がスタンダードなんだ」と思った方も多いようで。実際は無痛処置のタイミングには個人差があります。「テレビで観ると、お産が進んで痛みが来てからじゃないと麻酔をしてくれないんですよね?」って聞かれることもあります。
interviewer:人気ドラマだから影響が大きいんですね。
Mさん:「鎌ケ谷バースクリニック」だと、子宮出口が閉じていても、計画分娩を希望して促進剤を使う方もいらっしゃいますし、ギリギリまで家で粘って痛くなってから無痛分娩にする方もいます。そうやって様々なお産のケースに臨機応変に対応できる病院もあれば、麻酔科医が1人しかいないから「日中の指定した時間じゃないと麻酔できません」という病院もあります。だから、一般的な情報+病院ごとのやり方がわかるようになるか、無痛分娩について導入〜分娩〜産後までの統一された情報がないと、選択するのがなかなか難しいのかなとは思います。
※計画分娩・・・あらかじめ分娩する日を決めておいて、その日に陣痛促進剤を使って陣痛を起こし、人工的にお産を始める分娩方法
interviewer:一般の方だと「医師にどういう質問をしたらいいか」というのが、そもそも難しいですよね。
Mさん:そうですね。話を聞くと妊婦の方はみなさん口をそろえて「無痛分娩で出産した人が近くにいないから、何がわからないのかが、わからない」とおっしゃいます。病院の先生もしっかりインフォームド・コンセントをしてくれますが、みなさん基礎知識やある程度の情報を持たないままに先生の話を聞いてしまい、説明されたことを改めて聞くなんてこともあります。
※インフォームド・コンセント・・・医師や看護師等から説明を受け、患者が納得した上で同意すること。
interviewer:「何がわからないのかが、わからない」という感覚わかります。
Mさん:大事な情報がうまく伝わっていないこともあるので、この病院ではどう対応しますというのが患者さん自身でわかるようなものがあるといいかもしれません。
interviewer:そうですね。
Mさん:やはり、もう少し無痛分娩について、知り得る情報が一般化してくれるといいのかなとも思います。ただ、一方で無痛分娩に対応する病院がかなり限られています。妊娠したら、まずは無痛分娩にするかしないかを決めて、さらには病院を選ぶのも大事かなと。最近では無痛分娩の可否に関わらず出産できる病院自体も減っています。加えて病床数によっては分娩制限があり、本当は無痛分娩にしたくて病院に来たのに、気付いた時にはもう締め切られてしまって、結局自然分娩しかなかったというケースもあります。
interviewer:病院選びひとつでもすごく大変ですよね。
Mさん:自分の住む地域や出産したい地域で、無痛分娩ができる病院がどれくらいあるのか。そのあたりも含めてわかりやすくなると、妊婦さんとしては安心かなと思います。