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2026.03.25
その他

大阪府和泉市 小児科看護師・小畑さん 3人目で選んだ無痛分娩

大阪府和泉市で小児科看護師として働く小畑貴予さんは、1人目48時間、2人目18時間の長時間分娩を経て、3人目では無痛分娩を選びました。妊娠中には全身の強いかゆみと湿疹に悩まされる妊娠天疱瘡も発症しましたが、当日の出産は痛みが生理痛程度に抑えられ、家族と会話しながら赤ちゃんを迎えられたと言います。その数年後に同じクリニックで、日本を揺るがす無痛分娩事故のニュースを知り「自分の時はいったいどうだったのか」と複雑な思いがよみがえったといいます。

【基本data】

■name/小畑貴予さん

■年齢/48歳

■お住まいのエリア/大阪府和泉市

■家族構成/夫+妻+子ども3人

■出産施設/-

■無痛分娩回数/1回

■無痛分娩費用/6万円(基本費用➕無痛分娩費6万円➖出産一時金)

■無痛分娩実施時期/2016年

取材時期:2026年2月

小児科看護師としての仕事と歩み

小畑さんの仕事場での写真/小畑さん提供写真

interviewer:本日はよろしくお願いいたします。

小畑さん:こちらこそ、よろしくお願いいたします。

interviewer:まずは、いまのお仕事やこれまでのご経歴について教えていただけますか。

小畑さん:大阪の和泉市で、小児科の看護師として働いています。いわゆる「子どもの病院」で、日々、発熱や咳、胃腸炎など、よくある小児の病気のお子さんと、そのご家族と関わっています。

interviewer:看護師としてのキャリアは長いんですよね。

小畑さん:高校を卒業してすぐ看護の世界に入って、まずは働きながら准看護師の免許を取りました。そのあと正看護師の資格も取って、ずっと現場にいます。トータルでいうと、もう30年近くになりますね。

interviewer:小児科を選んだのには、どんな理由があったのでしょうか。

小畑さん:やっぱり「子ども」と「家族」がセットでいるところが好きなんだと思います。子どもは症状をうまく言葉にできないことも多いので、その分、表情やしぐさを見たり、ご家族の不安を受け止めたりする場面が多いんですね。そこに看護師として関わることに、ずっとやりがいを感じてきました。

interviewer:現場のお仕事に加えて、「子どもの医療や看病について伝える活動」もされているんですよね。

小畑さん:はい。熱が出たときどうしたらいいかとか、受診の目安はどこかとか、ワクチンや感染症のことなど、いわゆる「おうちでの看病」の話をお伝えする仕事もしています。医療者から見れば当たり前の知識でも、一般の方からすると「そもそも何を知らないのかが分からない」ことって多いんですよね。そこを橋渡しできたら、という思いがあります。

48時間・18時間の出産のあと、3人目で「無痛を選んだ理由」

2人の姉と妹/小畑さん提供写真

interviewer:まずは、これまでのお産のことから伺わせてください。上のお二人は自然分娩だったとうかがいましたが、それぞれどんなお産でしたか。

小畑さん:1人目は、とにかく時間がかかりました。陣痛が始まってから産まれるまで48時間ぐらいかかったんです。ほとんど寝られないまま丸2日・・・という感じで、体力的にも精神的にもギリギリでした。

interviewer:48時間・・・聞いているだけでもすごいですね。

小畑さん:本当に「いつ終わるんだろう」という感覚でしたね。2人目はそこまでではなかったんですけど、それでも18時間ぐらい。途中で何度か意識が飛んでしまったりして「これはさすがにしんどいな」と思いました。

interviewer:それでも当時は、まだ無痛分娩を選ぶという発想は持ちづらかったのでしょうか。

小畑さん:無痛分娩の存在自体は、1人目の時から知っていました。看護師ですし、大学病院などで行われているという情報は入ってきていたので。ただ、自分が出産した病院では当時やっていなかったし、世間的にも「お産は痛みを乗り越えてこそ」という風潮がまだまだ強かった時期だったと感じています。「無痛分娩で産みたい」とは心のどこかで思っていても、実際に選択肢としては上がりにくかったですね。

interviewer:そんな中で、3人目のお子さんのときに無痛分娩を選ぼうと決めたきっかけは何だったのでしょう。

小畑さん:まず、年齢ですね。上の2人とだいぶ年が離れていて、3人目を妊娠したとき私は39歳手前でした。「今からまたあの痛みをゼロからやるのか」と考えたときに、単純に「もうあの痛みは嫌だ」と思ってしまって。

interviewer:1人目48時間、2人目18時間のお産を経験してきて、3回目となると覚悟も変わってきますよね。

小畑さん:そうですね。若い頃は「体力でなんとかなる」とどこかで思えていた部分もあったんですけど、3人目の時は「同じようにはいかないだろうな」という感覚が強かったです。2回分の経験があるからこそ「自分の限界ライン」も分かっていて、それをもう一度超えるイメージが全然湧かなかったんです。

interviewer:そこで「次は無痛分娩にしよう」と。

小畑さん:はい。「3人目は絶対に無痛分娩で産む」と心の中で決めました。看護師という職業柄、麻酔そのものへの知識はある程度ありましたし、リスクがゼロではないことも分かったうえで、それでも自分の年齢やこれまでのお産の経過を考えると「今回は痛みを軽くできる方法を選びたい」と思ったんです。

interviewer:医療職としての目線と、3人の母になる当事者としての目線、その両方からの判断だったんですね。

小畑さん:そうだと思います。「痛みを我慢してこそ」という価値観に合わせるより、自分と赤ちゃんにとっていちばんいい形を選びたい。2回の自然分娩を経験したからこそ「無痛分娩を選んでもいい」と自分に言えるようになった感じがあります。

「痛みを乗り越えてこそ」と言われた時代に、看護師ママが感じていた葛藤

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interviewer:小畑さんが「無痛分娩で産もう」と決めた頃(10年前)って、まだ今ほど一般的ではなかったですよね。当時の周りの空気って、どんなふうに感じていましたか。

小畑さん:そうですね。まだまだ「お産は痛みを乗り越えてこそ」という風潮は強かったと思います。私自身、第1子・第2子を産んだ20年前・18年前くらいは、世間的にも「大学病院でやる、特別なお産」というイメージがありました。

interviewer:無痛分娩という言葉自体は、かなり早い段階からご存じだったんですよね。

小畑さん:はい。第1子のときから知っていました。看護師ということもあって、麻酔の仕組みもなんとなくは分かっていましたし「そういう方法がある」という知識はありました。ただ、自分の身近な選択肢というよりは「大きな病院で、お金に余裕のある人がするお産」という印象でした。

interviewer:ご自身が1人目・2人目を出産された頃は、通っていた病院では無痛分娩はやっていなかったんですよね。

小畑さん:そうです。第2子を産んだ病院が、のちに第3子を無痛分娩で産んだ病院なんですが、その頃はまだ無痛分娩は導入されていませんでした。周りのお母さんたちを見ていても「痛みを経験してこそ一人前」という価値観が、普通にあったように感じます。

interviewer:看護師として医療の知識があることと「母として産む自分」との間で、何かモヤモヤした部分はありましたか。

小畑さん:医療者としては「痛みをコントロールできるなら、それも立派な医療行為」という感覚はありました。一方で、当時の空気としては「痛みを乗り越えるのが当たり前」とされていたので、その中で自分はどうするか、ということはずっと考えていましたね。

interviewer:ご自身の中では「痛みを経験しなくていいのか」という迷いと「もう痛いのは嫌だ」という気持ち、どちらが強かったですか。

小畑さん:圧倒的に「もう痛いのは嫌だ」の方でした(笑)。第1子で48時間、第2子で18時間かかっていて、体力的にも精神的にもかなりギリギリまで追い込まれていたので。「39歳で、あの長時間の陣痛をもう一度は無理」と素直に思いました。

interviewer:看護師としての知識があるからこそ、余計に怖く感じる部分もあったりしましたか。

小畑さん:そうですね。「感覚がないから、どこに力を入れていきめばいいんだろう」とか「本当にちゃんと産めるのかな」とか、細かいところを想像してしまうところはありました。でも、2回自然分娩をしているという経験もあったので「なんとかなるさ」「体が覚えているはず」と思うようにしていました。

interviewer:時代の価値観と、自分の体験と、医療者としての視点。その全部を抱えたうえで「3人目は無痛でいこう」と決められたんですね。

小畑さん:そうですね。いろいろ考えることはありましたけど、最終的には「自分がどうしたいか」に戻ってきました。長時間の陣痛を2回経験した自分だからこそ、無痛分娩という選択肢を使ってもいい。今振り返っても、あの選択をしてよかったと思っています。

出産から産後ケアまで。「この院長なら任せられる」と思えた瞬間

小畑さん提供写真

interviewer:3人目のお子さんを産む病院として、最終的にその産院を選ばれた決め手は、どんなところにあったのでしょうか。

小畑さん:いちばん大きかったのは、「この院長先生なら任せられる」と感じたことですね。実は私、一度その産院に就職希望で面接に行ったことがあるんです。

interviewer:そうだったんですね。面接のとき、どんな印象でしたか。

小畑さん:院長先生と1対1でお話ししたんですが、面接なのに1時間くらいずっと話し込んでしまって。テーマは「出産から産後ケアまで、一貫して保護者を支えていきたい」という院長先生の思いでした。たとえば、出産だけで終わりではなくて、そのあと赤ちゃんと一緒に家に帰ってからの生活まで含めて、どう支えていくか。産後の母体のケアや、育児のスタートをどうサポートするか。そういう話を、とても熱量高く語っておられたのが印象的でした。

interviewer:看護師として小児科で働いてこられたご自身の思いとも、通じる部分があったんですね。

小畑さん:そうですね。私もずっと小児科で、子どもとご家族の生活に関わってきたので、「出産のその先」まで見ている先生なんだな、というのはすごく共感しました。そのとき「ここなら、患者さんとしても安心して通えるな」と思えた感覚は、今でも覚えています。

interviewer:他にも候補になっていた病院はあったんでしょうか。

小畑さん:近くに母子医療センターがあって、そこも候補にはしていました。ただ、最終的に迷って決めるポイントになったのは「家族がどこまで一緒にいられるか」だったと思います。

interviewer:具体的には、どんな違いがあったのですか。

小畑さん:母子医療センターの方は、子どもが病棟に入れなかったんです。一方で、私が選んだ産院は、上の子たちも比較的気軽に病室に入ることができました。私は3人目の出産だったので「できるだけ早く、上の子たちにも赤ちゃんを見せてあげたい」という気持ちが強くて。

interviewer:なるほど。

小畑さん:院長先生の考え方も含めて「ここなら家族みんなで新しい命を迎えられる」と思えたことが、最終的な決め手になりました。

interviewer:院長先生の「出産から産後までを支える」という姿勢と、家族ごと受け入れてくれる環境。その2つが、3人目の出産を託すうえでの大きな安心材料になったわけですね。

小畑さん:はい。無痛分娩を選ぶこと自体にはいろいろな迷いもありましたが「どこで産むか」については、院長先生とお話ししたときの感覚がずっと残っていたので、迷いなく決めることができました。

破水で始まった3人目のお産。麻酔が効いて、家族と会話できる出産に

小畑さん提供写真

interviewer:3人目のお産当日は、どんな始まり方だったか覚えていますか。

小畑さん:うちは3人とも「破水」から始まっているんです。3人目のときも同じで、前日の夜に破水して、そのまま入院になりました。そこから少しずつ陣痛が始まっていって、最初は「来てるな」くらいの、ゆるやかな痛みでした。

interviewer:入院してから、本格的に麻酔をお願いするまでは、どれくらい時間がありましたか。

小畑さん:前日の夜に入院して、そこから一晩かけて少しずつ陣痛が進んでいきました。朝になると、だんだん陣痛の間隔が詰まってきて「そろそろしんどくなってきたな」という感じに。そこから6時間くらいは、そのまま我慢していたと思います。お昼過ぎくらいに「もうお願いしよう」と自分から麻酔を頼みました。

interviewer:麻酔を入れるタイミングは、ご自身でも見計らっていたんですね。

小畑さん:そうですね。看護師なので麻酔のこともある程度わかっているつもりでしたし「どのタイミングで入れてもらおうか」は、妊娠中からずっと考えていました。ただ、実際のところはちょっと我慢しすぎたと思います(笑)。助産師さんからは「もうちょっと我慢してみようか」と言われていて、一方で後から院長先生には「もっと早よ言いなさい」と言われて。「無痛にならないじゃないか」とツッコまれました。

interviewer:実際に麻酔が入ってから、痛みはどのくらい変わりましたか。

小畑さん:私の感覚では、マックスの痛みを10としたら、麻酔が効いてからは「1」くらいですね。生理痛みたいな、かすかな痛みは残っているけれど、陣痛で身動きが取れないような感じではなくなりました。足も麻酔が効いて自分では動かせない状態だったので、その感覚はすごく不思議でした。縦膝の姿勢になったときに「あ、こういう感じで感覚がなくなるんだ」と感じたことはよく覚えています。

interviewer:痛みが落ち着いてからの時間は、どんなふうに過ごしていましたか。

小畑さん:モニターを見ながら「今、波きてるね」「まだかな」と主人とずっと話していました。上の子どもたちも途中までは部屋にいたのですが「なんか退屈だから遊びに行ってくる」と院内をうろうろしていましたね。結局、おばあちゃんが「一度連れて帰るわ」と連れ帰ってくれて、赤ちゃんが生まれたあとに会いに来る、という流れになりました。

interviewer:麻酔が効いてから出産までは、どれくらいの時間でしたか。

小畑さん:だいたい3時間くらいです。その間ずっと「痛みはほとんどないけれど、陣痛は進んでいる」という状態でした。モニターの波を見ながら「今けっこう強い波きてるね」とか話しつつ「でも痛くないね」と笑っているような時間でしたね。

interviewer:その「痛みがない陣痛の時間」は、どんな感覚として残っていますか。

小畑さん:すごく穏やかでした。痛みで体をこわばらせる必要がないので「今から新しい命が生まれるんだ」というワクワクした気持ちと「まだかな、もうすぐかな」というそわそわした感じ、その両方をゆっくり味わえた時間でした。

interviewer:いいですねぇ。

小畑さん:上の2人の出産は、48時間・18時間と長丁場で、とにかく「乗り切る」ことで精一杯だったので、3人目で初めて「家族と話しながら赤ちゃんを待てる出産」を経験できたのは、無痛分娩ならではだったと感じています。

自然分娩2回とのいちばんの違いは「体」より「心」の余裕だった

小畑さん提供写真

interviewer:実際に無痛分娩で3人目を出産してみて、1人目・2人目の自然分娩と比べて「いちばん違った」と感じたところはどこでしたか。

小畑さん:やっぱり「心の余裕」ですね。麻酔が効いているあいだは、陣痛の痛み自体はほとんど感じませんでした。でも、だからといって体へのダメージがゼロになるわけではなくて、子宮が元に戻っていくときの痛みもありますし、そのまま寝不足の育児に入っていくのも同じです。「体がラクで全然疲れませんでした」という話ではなくて、それでも無痛分娩のときは、痛みがコントロールされていたぶん、メンタル面の余裕がまったく違いました。

interviewer:その「心の余裕」は、どのあたりで強く感じましたか。

小畑さん:まず、出産そのものへの恐怖心がかなり少なかったです。1人目・2人目のときは、長時間の陣痛を経験しているので「あの痛みをまた味わうのか…」「耐えられるかな…」という不安が常にありました。でも3人目のときは「麻酔が効けば痛みはコントロールできる」という安心感があったので、出産に向かう気持ちがかなり違いました。

interviewer:そうですよね。

小畑さん:それから、麻酔が効いているあいだの数時間が「これから赤ちゃんを迎えるためのセットアップの時間」になっていた感覚があります。痛みで必死だった1人目・2人目のときと違って、夫と会話をしたり、モニターを見ながら「そろそろかな」とワクワクしながら待てたりして。心の中で、少しずつお母さんモードに切り替わっていく準備ができたんだと思います。

interviewer:自然分娩と無痛分娩の両方を経験されてみて、全体としてはどう感じていますか。

小畑さん:体のダメージだけを見れば、どのお産もやっぱり大仕事です。でも、無痛分娩のときは、出産直後からの自分の精神状態がまったく違いました。記憶もすごく鮮明で、写真を撮る余裕もありましたし、写真に写る自分の表情も、上の子たちのときとは全然違っていて。「戦いを終えた直後」というより「新しい家族を迎えた喜びが顔に出ているな」と感じられるものになっていました。

interviewer:なるほど。

小畑さん:もし3人目も自然分娩で、あの長時間の陣痛をもう一度経験していたら、産後のスタートはもっとしんどいものになっていたと思います。そういう意味でも「体」以上に「心」の余裕をつくってくれたというのが、私にとっていちばん大きな違いでした。

看護師で3人目だからこそノーマーク。産後ケアと上の子の揺れる気持ち

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interviewer:3人目のお産は無痛分娩で、しかもご自身が看護師さん。病院側からすると「安心して任せられる人」に見えたのかなと思うのですが、産後のケアはどうでしたか。

小畑さん:そうですね、いい意味でノーマークだったと思います(笑)。3人目だし、看護師だし、しかも小児科なので「基本的なことは分かっているだろう」と安心して見てくださっていた印象です。退院指導も要点だけを押さえて、そのほかは「何かあればいつでも声をかけてくださいね」というスタンスで、割と自由にゆっくりさせてもらえました。

interviewer:それはそれで、気持ち的にはラクなところもありそうですね。

小畑さん:ありましたね。私自身も「ここは自分でやっておきます」「大丈夫です」と言いがちなタイプですし、同じ医療職として、あまり細かいところまで説明させないようにしていたところもあったと思います。なので「困っていなさそうだから任せよう」という病院側と「自分でできることは自分で」という私の気持ちが、うまくかみ合っていた感じでした。

interviewer:今、振り返ってみると、その状況をどう受け止めていますか。

小畑さん:あのときは「3人目だし、看護師だし、こんな感じかな」と自然に受け止めていました。ただ、どれだけ経験があっても、「お母さんとしては初めての3人目」なんですよね。

それに今回は、妊娠中に「妊娠性天疱瘡(にんしんせい てんぽうそう)」という、全身に強いかゆみと湿疹が出る皮膚の病気になってしまって。豆粒くらいの水ぶくれが体じゅうに出て、とにかくかゆくてかゆくて…2か月ほとんど眠れないような時期が続きました。いろいろ薬も使いましたが「根本的によくなるのは出産してから」と言われていて、実際、産んだ翌日にはピタッと症状が引いていったんです。

interviewer:そんな症状があるんですね。

小畑さん:はい。そんなふうに、体はボロボロの状態からのスタートでしたし、年齢も上がっている。だから本当は、もっと「しんどい」と言ったり、周りに甘えたりしてもよかったな、と今は思います。

interviewer:一方で、お家では「3人兄弟」の生活が始まります。上のお子さんたちの様子は、どうでしたか。

小畑さん:そのとき上の子は小学校高学年くらいで、もう「お世話」という意味ではほとんど手がかからない年齢でした。実務面ではすごく助かりましたし、「このタイミングで3人目でよかったな」と正直思いました。

interviewer:いいですねぇ。

小畑さん:ただ、手がかからないからこそ、寂しさは大きかったんだと思います。赤ちゃんのお世話にどうしても時間も気持ちも取られますし「分かっている年齢」だからこそ、余計に我慢してしまう部分もあったはずです。

interviewer:そう感じる場面もあったのでしょうか?

小畑さん:ありましたね。数年後、いちばん上の子が中学生になった頃に、かなり激しい反抗期が来ました。その様子を見ていて「ああ、あのときの寂しさや我慢も、きっとここに積もっているんだろうな」と感じました。本人に「赤ちゃん返りしてるでしょ」と言ったら怒られると思いますけど(笑)、中学生の“赤ちゃん返り”って、なかなかパワフルです。

interviewer:3人目のお子さんの育児と、上のお子さんのフォロー。その両立は、かなり大変だったのでは?

小畑さん:本当にそうでした。赤ちゃんは24時間体制ですし、その一方で思春期に入っていく上の子の気持ちにも向き合わないといけない。なかなか大変でしたね。

数年後、自分が産んだクリニックでの無痛分娩事故が大々的に報じられました

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小畑さん:実は、3人目を産んでから数年後に、テレビのニュースで無痛分娩の事故が大きく取り上げられたんです。全国ネットのニュースやワイドショーでも何度も報じられて、「無痛分娩=危ないもの」というイメージが一気に広まってしまったように感じた出来事でした。それが、自分が無痛分娩でお世話になったのと同じクリニックだと知って、本当に衝撃でした。

interviewer:確かにあのニュースで「無痛分娩は危ない」というイメージが広がりましたね。ご自身が信頼して、気持ちよく出産されたクリニックの事故のニュースを見た瞬間、どんな感情が押し寄せてきましたか。

小畑さん:一言でいうと、すごく複雑でした。私自身は本当に「ここで産んでよかった」と感じていたので、まずは「どうしてそんなことになってしまったんだろう」という気持ちがありました。一方で、「じゃあ、私のときは本当は危ない橋を渡っていたのかな?」という不安も、正直ゼロではなかったです。

interviewer:身近な人たちの反応はいかがでしたか。

小畑さん:主人はかなりショックを受けていましたね。「あそこで無痛分娩してたんだよね? 怖いね」といった反応もありました。私よりも周りの大人たちのほうが「実は危なかったんじゃないか」という視点でニュースを受け止めていたように思います。

interviewer:ご自身の経験と、報道で触れる無痛分娩の姿。そのギャップについては、どう受け止めていますか。

小畑さん:私にとって無痛分娩は「怖いもの」ではなく「自分と赤ちゃんにとってベストな選択肢のひとつ」でした。もちろんリスクはゼロではないし、麻酔の専門性や体制がとても大事だということも、医療者として理解しています。そのうえで「事故があったから全部ダメ」となるのではなくて「どうすれば安全に提供できるのか」「どういう情報をお母さんたちに届けるべきなのか」を考えていく必要があると感じるようになりました。

「知らないままだと損をするから」。医療者として伝えたいこと

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interviewer:ここまで、小畑さんご自身の出産体験を詳しく伺ってきました。改めて、看護師として、そして3人のお子さんのお母さんとして、いまの妊婦さんやご家族に伝えたいことは、どんなことでしょうか。

小畑さん:一番は「知らないままだと損をすることがたくさんある」ということですね。

出産も育児も、人生の中でそんなに何度も経験することではないのに、いざその場になってから情報を集めようとすると、どうしても「目の前のことで精一杯」になってしまいます。本当は、もう少し前の段階で知っておけば、選べたはずの選択肢があったりするんです。

interviewer:無痛分娩も、そのひとつと言えそうですね。

小畑さん:そう思います。無痛分娩に限らず、ワクチン、感染症、子どもの発達や視力・聴力、歯並びのことまで──医療者として日々見ていると、「知っていれば防げたのにな」と感じる場面が本当に多いんです。

interviewer:ありそうですね。

小畑さん:たとえば視力や弱視の問題は、6歳くらいまでの関わり方で、その後の見え方が変わる可能性があると言われていますし、歯並びも、日々の姿勢や食べ方、口の使い方で影響を受けるとされています。「矯正しなきゃ」となってからできることもありますが、それ以前にできる工夫も、実はたくさんあるんですよね。

interviewer:そうした情報って「知らないまま育児が終わってしまう」ケースも多そうです。

小畑さん:そうなんです。お母さんたちは決して怠けているわけでも、興味がないわけでもなくて、「何を調べたらいいか分からない」「情報が多すぎて、どれを信じたらいいか分からない」という状態になりがちなんだと思います。

interviewer:ですよね。

interviewer:医療職は「何が分かっていないのか」を言葉にすることができます。でも、医療に縁がなかった人たちは、その「分からない」の輪郭すら分からない。そこにすごくギャップを感じていて、その溝を少しでも埋めたいという想いがあります。

interviewer:情報の選び方について、小畑さんはどうお考えでしょうか?

小畑さん:私は「何かを“やめる”情報」よりも、「どう“プラスするか”の情報」を大事にしたいと思っています。

「これは絶対ダメ」「◯◯は使わないほうがいい」という“引き算”の情報ばかりを集めてしまうと、お母さん自身がどんどん身動きがとれなくなってしまうんですね。それよりも、「こういうケアをすると視力の発達を支えられますよ」「こんな関わり方をすると、歯並びのリスクを減らせますよ」といった「足し算」の情報を、少しずつ生活に取り入れていくほうが、結果的には前向きで続けやすいと思います。

interviewer:無痛分娩やワクチンのように、ネット上で賛否が分かれるテーマについては、どう向き合うのがいいのでしょうか。

小畑さん:「怖いからやめる」でも「なんとなくみんなやっているからやる」でもなくて、信頼できる情報源から仕組みやリスク、メリットを知ることが大事だと思います。そのうえで「自分たち家族にとって、いま何がベストか」を考えて選んでいく。

医療はどうしてもゼロリスクにはなりません。でも「知らないから選べなかった」という状況は、できるだけ減らしていきたい。そこをサポートするのが、私たち医療者の役割だと感じています。

interviewer:最後に、このインタビューを読んでいる妊婦さんや、これから親になる方々に向けて、一言メッセージをいただけますか。

小畑さん:「こんなこと聞いていいのかな」「こんな初歩的なこと、恥ずかしいかな」と思うような疑問こそ、ぜひ遠慮なく言葉にしてほしいです。出産も育児も、誰にとっても初めての経験の連続です。専門職である私たちでさえ、日々学び続けている世界ですから「分からない」があるのは当たり前。だからこそ、ひとりで抱え込まずに、信頼できる人や場所を見つけて、たくさん質問してほしい。知らないまま我慢するのではなく「知ったうえで、自分で選べた」と思えるような妊娠・出産・育児の時間を過ごしてもらえたら嬉しいな、と思っています。

interviewer:小児科の看護師さんならではの貴重なご意見ですね。本日はありがとうございました!

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