現役小児看護師 小畑さんvol.01「2026年4月から無料。赤ちゃんを守るRSウイルスのワクチン」
大阪府和泉市で現役小児看護師として働く小畑貴予さんに、2026年4月から無料になった妊婦さん向けRSウイルスワクチンについて伺いました。RSウイルスは、生後まもない赤ちゃんにとって命に関わることもある病気です。コロナ禍で呼吸が止まりそうな赤ちゃんを見た経験をもとに、RSウイルスの怖さと、赤ちゃんを守るワクチンの意味を語ってくれました。
【小畑貴予さんPROFILE】

高校卒業後から看護の現場に入り、看護師としての経験は30年近く。現在は大阪府和泉市で現役の小児科看護師として働き、発熱や咳、感染症などで受診する子どもたちと、その家族に日々向き合っている。小児科で培った知識をもとに、子どもの病気や看病、受診の目安、ワクチン、感染症について、保護者に向けてわかりやすく伝える活動も行っている。
2026年4月から無料!まだあまり知られていない“赤ちゃんを守るワクチン”

interviewer:本日はよろしくお願いいたします。
小畑さん:よろしくお願いいたします。
interviewer:今回は、現役の小児看護師として日々子どもたちと関わっている小畑さんに、妊婦さんやこれから出産を迎える方に向けて「これは知っておいてほしい」と思うテーマについて伺えればと思っています。
小畑さん:はい。では、RSウイルスのワクチンの話はいかがでしょうか?2026年4月1日から、妊婦さん向けのRSウイルスワクチンが無料で受けられるようになったんです。
interviewer:RSウイルスのワクチン、ですか。正直、私は「RSウイルス」という名前自体、今回初めて聞きました。
小畑さん:そうなんですね。でも、妊娠・出産や小児医療に関わっていないと、あまり聞く機会がないかもしれません。
interviewer:まず、RSウイルスのワクチンというのは、どういうものなんでしょうか。
小畑さん:ワクチンの名前でいうと「アブリスボ(ABRYSVO)」というものです。妊婦さんが接種することで、お母さんの体の中で作られた抗体が赤ちゃんに移行して、生まれてすぐの赤ちゃんをRSウイルスの重症化から守る、という考え方のワクチンです。
interviewer:赤ちゃんに打つのではなく、妊婦さんが打つワクチンなんですね。
小畑さん:そうです。そこが少し分かりにくいところだと思います。RSウイルスは、生後まもない赤ちゃんがかかると重症化することがあるウイルスです。でも、生まれてすぐの赤ちゃんにワクチンを打つのは難しい。なので、妊娠中のお母さんに接種して、赤ちゃんに抗体を届けるという仕組みなんです。
interviewer:なるほど。お母さん自身を守るというより、生まれてくる赤ちゃんを守るためのワクチンなんですね。
小畑さん:はい。もちろん妊婦さん自身の健康も大切ですが、このワクチンの大きな目的は、生まれてすぐの赤ちゃんをRSウイルスの重症化から守ることです。
interviewer:対象になる妊婦さんは、妊娠中ならいつでも打てるのでしょうか。
小畑さん:定期接種としては、妊娠28週0日から36週6日までの妊婦さんが対象です。接種は1回です。妊婦健診のタイミングで案内されることもあると思いますし、気になる方は通っている産婦人科で確認してもらうのがいいと思います。
interviewer:以前からあったワクチンが、2026年4月から無料で受けられるようになったということですか。
小畑さん:そうです。以前は自費で受ける形で、費用も数万円かかっていました。私の周りでも、4月より前に自費で接種した方が「4月以降だったら無料だったのに」と話していたことがありました。もちろん、その時点で必要だと思って接種した判断は大事なんですけど、金額の負担は大きかったと思います。
interviewer:数万円となると、受けたくても迷う方は多そうですね。
小畑さん:そうですね。だからこそ、定期接種になった意味は大きいと思います。現場では、RSウイルスが赤ちゃんにとって怖い病気だという認識は以前からありました。でも、それを防ぐ手段が限られていた。今回、妊婦さんが無料で受けられる選択肢として整ったことは、かなり大きな一歩だと思います。
interviewer:ただ、私のようにRSウイルスという名前を初めて聞く人も少なくない気がします。そうなると、ワクチンの必要性もなかなか伝わりにくいですよね。
小畑さん:そうだと思います。RSウイルスを知らないと、ワクチンの必要性も分からないですよね。しかも「妊婦さんにワクチン」と聞くと、不安に感じる方もいると思います。だからまずは、RSウイルスがどんな病気なのか、赤ちゃんにとって何が怖いのかを知ってもらうことが大事だと思います。
そもそもRSウイルスとは?

interviewer:まず、RSウイルスがどんなものなのかを教えてください。
小畑さん:RSウイルスは、いわゆる風邪のウイルスのひとつです。特別なウイルスというより、誰でも一生のうちに何度もかかるものなんですね。
interviewer:何度もかかるものなんですね。一度かかったら免疫がついて終わり、というわけではないんですか。
小畑さん:そうではないです。ただ、最初にかかったときが一番重くなりやすくて、2回目、3回目と感染を重ねるうちに、だんだん軽くなっていくことが多いです。
interviewer:大人もかかるんですか。
小畑さん:かかります。でも、大人がかかっても「ちょっと鼻風邪かな」くらいで終わることが多いです。小学生くらいになると、もうほとんど鼻風邪のような感じですね。
interviewer:そう聞くと、そこまで怖い病気には感じにくいですね。
小畑さん:そうなんです。大人や大きい子にとっては軽く済むことが多いので、RSウイルスの怖さがなかなか伝わりにくいんです。でも、生まれて間もない赤ちゃんにとっては、まったく別の話になります。
interviewer:赤ちゃんがかかると、どうなるんでしょうか。
小畑さん:特に生後1ヶ月、2ヶ月くらいの小さな赤ちゃんがかかると、呼吸が苦しくなることがあります。赤ちゃんはまだ体も小さいですし、呼吸する力も弱い。苦しくなると、呼吸そのものを頑張れなくなってしまうことがあるんです。
interviewer:呼吸すること自体を、やめてしまうような状態になるということですか。
小畑さん:そうです。大人なら「息が苦しい」と言えるし、自分で姿勢を変えたり、助けを求めたりできますよね。でも赤ちゃんは、それができません。苦しくなっても泣く力が弱くなって、呼吸も弱くなって、気づいたときにはかなり危ない状態になっていることがあります。
interviewer:同じRSウイルスでも、大人と赤ちゃんでリスクは全然違うんですね。
小畑さん:全然違います。RSウイルスは、赤ちゃんにとっては本当に怖い病気になり得ます。だから小児科の現場では、昔から「RSに小さい赤ちゃんがかかると危ない」という認識がありました。
interviewer:一般の人が知らないだけで、現場ではずっと注意されてきたウイルスだったんですね。
小畑さん:そうですね。小児科で働いていると、RSウイルスの怖さはかなり身近です。大きい子や大人なら軽く済むことが多いからこそ「ただの風邪でしょ」と思われやすい。でも、生後まもない赤ちゃんにとっては、入院や集中治療につながることもある。そこはぜひ知っておいてほしいです。
お母さんの免疫を突破してくる「RSウイルス」

interviewer:赤ちゃんの病気については「生後半年くらいまでは、お母さんからもらった免疫で守られている」と聞いたことがあります。
小畑さん:よく言われますよね。実際、お母さんから赤ちゃんへ移行する免疫はあります。だから、生まれてすぐの赤ちゃんはある程度守られている、という考え方自体は間違いではありません。
interviewer:私もそのイメージがありました。だから、生後1ヶ月や2ヶ月の赤ちゃんが風邪をひくという感覚が、あまりなかったです。
小畑さん:そこがRSウイルスの怖いところなんです。RSウイルスは、その「お母さんからもらった免疫」だけでは十分に防ぎきれないと言われています。なので、生後1ヶ月以内の赤ちゃんでもかかることがあります。
interviewer:お母さんの免疫で守られている時期でも、RSウイルスにはかかってしまうんですね。
小畑さん:そうです。いわば、RSウイルスはそこを突破してくるウイルスなんです。だから「まだ生まれたばかりだから大丈夫」とは言い切れません。
interviewer:そう聞くと、なぜ赤ちゃん本人ではなく妊婦さんにワクチンを打つのかも、少し分かってきますね。
小畑さん:そうなんです。生まれてすぐの赤ちゃんにワクチンを打って免疫をつける、というのは現実的に難しいんですね。だから、妊娠中のお母さんにワクチンを接種して、お母さんの体の中で作られた抗体を赤ちゃんに届ける。生まれた直後から、赤ちゃんを守れる状態に近づけるという考え方です。
interviewer:つまり、もともとある母体免疫だけではRSウイルスを防ぎきれないから、ワクチンで抗体を補うということですね。
小畑さん:そうですね。RSウイルスは「お母さんの免疫があるから大丈夫」とは言い切れないウイルスです。だからこそ、妊婦さんにワクチンを打って、生まれてくる赤ちゃんに抗体を届けるという方法が必要になってきたんです。
「どこにも診てもらえない」呼吸が止まりそうな赤ちゃんが来院

interviewer:小畑さんご自身がRSウイルスの脅威を実際に感じた経験はありますか。
小畑さん:あります。今でも忘れられないのは、コロナ禍の真っ最中に来院した、生後1ヶ月くらいの赤ちゃんのことです。
interviewer:生後1ヶ月!
小畑さん:はい。お母さんが赤ちゃんを連れて来られたんですが、その時点でもうかなりしんどそうでした。お話を聞くと、お父さんがコロナ陽性で、その赤ちゃんは濃厚接触者という扱いになっていたんですね。そのため、他の病院では受診を断られてしまい「どこにも見てもらえない」という状態で来られたんです。
interviewer:当時は、コロナの影響で医療現場全体がかなり混乱していた時期ですよね。
小畑さん:そうです。子どものコロナ自体は軽症のことも多かったんですが、証明書を求めて病院に来る方も多くて、現場は本当に大変でした。そんな中で、生後間もない赤ちゃんが「呼吸が苦しそうだけど、どこにも診てもらえない」という状態で来たんです。
interviewer:来院した時点で、かなり危ない状態だったのでしょうか。
小畑さん:はい。見た瞬間に「これは危ない」と思いました。呼吸がかなり弱くて、酸素濃度も低い。最初は90%台前半くらいだったと思いますが、入院先を探して電話をしている間にも、どんどん下がっていきました。
interviewer:その時点で、RSウイルスだと感じたんですか。
小畑さん:「この子は絶対RSだ」と思いました。生後まもない赤ちゃんが、呼吸がしんどそうで、どんどん状態が悪くなっていく。小児科の現場では、そういう時にまずRSを疑います。
interviewer:入院先はすぐに見つかったのでしょうか。
小畑さん:それが、なかなか見つかりませんでした。お父さんがコロナ陽性で、赤ちゃんも濃厚接触者という扱いだったので、受け入れには手順が必要だと言われることが多かったんです。保健所を通して、指示を待って、という流れですね。
interviewer:でも、目の前の赤ちゃんは待てる状態ではなかった。
小畑さん:そうなんです。手順が大事なのは分かります。でも、その間にも赤ちゃんの酸素濃度は80%台まで下がっていって、泣く力も弱くなっていきました。呼吸もどんどん弱くなって「この子は本当に亡くなってしまうかもしれない」と思いました。
interviewer:その状態だと、一刻も早く大きな病院につなぐ必要がありますよね。そのあと、どのように動いたんですか?
小畑さん:受け入れ先を探しながら、搬送手段も確保しようとしました。でも、救急車もすぐにはつかまらない状況でした。目の前の赤ちゃんはどんどん苦しくなっていく。

interviewer:その時のお母さんの様子はどうでしたか。
小畑さん:お母さんも必死だったと思います。お父さんはコロナで動けない。赤ちゃんはどんどん苦しそうになっていく。どこにも診てもらえない中で、なんとか助けを求めて来られたんだと思います。冷静ではいられなかったはずですが、それでも赤ちゃんを守るために必死に動いていました。
interviewer:そう聞くと、RSウイルスの見え方が変わりますね。
小畑さん:そう思います。目の前で呼吸が弱くなっていく赤ちゃんを見て「これは本当に命に関わる病気なんだ」と実感しました。RSウイルスの怖さは、あの時の光景と一緒に、今でも強く残っています。
「すぐ連れてきて!」ベルランド総合病院小児科の判断

小畑さん:入院先を探すために、いろいろな病院へ電話をかけました。けれど当時はコロナ禍で、しかもお父さんがコロナ陽性、赤ちゃんも濃厚接触者という状況だったので、どこもすぐには受け入れが難しいという反応でした。
interviewer:赤ちゃんの状態は悪くなっているのに、受け入れ先がなかなか決まらなかったんですね。
小畑さん:そうです。当時は、濃厚接触者の赤ちゃんを受け入れるには、通常とは違う手順が必要でした。まず保健所に連絡して、そこから指示を受けて、受け入れ先を調整して・・・という正式な流れがあったんです。もちろん、その手順が大事なのは分かります。感染対策として必要なことですから。
interviewer:なるほど。
小畑さん:でも、その時に目の前にいた赤ちゃんは、今にも呼吸が止まりそうな状態でした。酸素濃度も下がっていて、泣く力も弱くなっている。こちらとしては「手順を踏んでいる間に、この子がもたないかもしれない」という感覚でした。だから、とにかく今すぐ入院につなげないといけない。現場としては、本当に切迫していました。
interviewer:はい。
小畑さん:そんな中で、あちこちの病院に電話をしました。そこで「すぐに連れてきてください!」と言ってくれたのが、堺市のベルランド総合病院の小児科でした。
interviewer:おお!良かった!
小畑さん:そうです。ただ、受け入れ先は見つかったものの、今度は搬送手段がありませんでした。救急車もすぐにはつかまらない状況だったので、最終的には、お母さんに車を運転してもらって、私が後部座席で赤ちゃんを抱っこしながら病院まで向かうことになりました。

interviewer:お母さんも運転しながら、相当な緊張状態だったでしょうね。
小畑さん:そうだと思います。だからこそ、私が取り乱すわけにはいかなかったんです。内心では「これは本当に危ない」「呼吸が止まったらどうしよう」と思っていました。でも、それをそのまま出してしまったら、運転しているお母さんまで動揺してしまう。赤ちゃんの容体だけでなく、交通事故につながる危険もあるので、そこは必死で平静を装っていました。
interviewer:それは大変な状態でしたね。
小畑さん:赤ちゃんに酸素を吸わせながら、呼吸が弱くなるたびに刺激を与えて、なんとか呼吸をつなぐ。こちらは内心かなり焦っていましたが、お母さんにはできるだけ落ち着いた声で接するようにしていました。病院までは車で10分ほどの道のりでしたが、その短い時間が、とても長く感じられるほど緊迫していました。
interviewer:ベルランド総合病院に到着してからは、すぐに対応してもらえたのでしょうか。

小畑さん:はい。到着してからは本当に早かったです。ベルランド総合病院の小児科で、すぐに診察して、すぐに処置につないでくれて、そのまま集中治療室に入りました。
interviewer:良かったぁ!
小畑さん:その時は、こちらも赤ちゃんを届けることで精一杯だったので、受け入れ側がどんな状況だったのかまでは分からなかったんです。でも後日、たまたまベルランド総合病院の小児科で働いていた看護師さんと話す機会があって、その当時のことを聞きました。
interviewer:小児科の方も、その時のことを覚えていたんですね。
小畑さん:覚えていました。「あの時は、こっちも騒然としていました」と言われました。急に状態の危険な赤ちゃんが来て、すぐに処置して、集中治療につなげる必要があったわけですから、受け入れた小児科の現場も本当に大変だったと思います。
interviewer:そうですよね。
小畑さん:でも、あの時に受け入れてもらえなかったら、私たちはどうすることもできませんでした。だから、後日その話を聞いた時にも、改めて「あの時、本当に助けてもらったんだ」と感じました。
interviewer:その赤ちゃんは、その後どうなったのでしょうか。

小畑さん:その後、無事に退院して、あとから来てくれました。元気な姿を見たときは、私の方が泣きそうになりましたね。
interviewer:良かったー!その当時、受け入れる側のベルランド総合病院の小児科にも、大きな負担やリスクがあったはずですよね。それでも「すぐに連れてきてください!」と言ってくれた。医療者としての矜持を感じます。めちゃくちゃカッコいい!
小畑さん:本当に良かったです。あの時、受け入れてくれたベルランド総合病院には、今でも本当に感謝しています。私たちからすると、あの病院は救世主でした。コロナ禍のあの状況で、命をつないでくれた病院だと思っています。
「医療が機能しなくなった時、赤ちゃんは簡単に死んでしまう」

interviewer:先ほどのエピソードを聞いて、RSウイルスそのものの怖さだけでなく「医療につながれない時間」の怖さも感じました。
小畑さん:そうなんです。あの時に一番強く感じたのは「医療が機能しなくなった時、赤ちゃんは簡単に死んでしまうんだ」ということでした。
interviewer:かなり重い言葉ですね。
小畑さん:でも、本当にそう感じました。赤ちゃんって、大人みたいに「苦しいです」「助けてください」と言えないじゃないですか。泣く力が弱くなって、呼吸が弱くなって、気づいた時には一気に悪くなっていることがあります。さっきまで泣いていた子が、だんだん泣かなくなっていく。それは、落ち着いてきたのではなくて、もう泣く力もなくなっているということなんです。
interviewer:泣かなくなることが、むしろ危険なサインになるんですね。
小畑さん:そうです。赤ちゃんは状態が悪くなるスピードが本当に早いです。特に生後まもない子は、体力も呼吸の力もまだ弱いので「少し様子を見よう」と思っている間に、どんどん悪くなることがあります。だから小児科では、月齢の低い赤ちゃんの呼吸状態にはすごく気を使います。
interviewer:あの時も、病気そのものに加えて、コロナ禍で医療につながりにくい状況が重なっていたわけですよね。
小畑さん:はい。RSウイルスそのものも怖い。でも、それ以上に怖かったのは、必要な医療にすぐつながれなかったことです。受け入れ先を探す、手順を確認する、搬送手段を確保する。その間にも赤ちゃんの状態は悪くなっていく。現場にいる側としては、本当に「時間との勝負」でした。
interviewer:RSウイルスの重症化については、小児科の現場では以前から問題視されていたんでしょうか。
小畑さん:昔から言われていました。小さい赤ちゃんがRSにかかると危ない、というのは小児科ではかなり共有されている感覚です。生後早い時期に重症化すると、その後に喘息のような症状につながる可能性があるとも言われていますし、入院や集中治療が必要になることもあります。
interviewer:そうした現場の積み重ねがあって、妊婦さん向けワクチンの定期接種化につながったわけですね。
小畑さん:そうだと思います。もちろん、ワクチンができたからすべて解決するわけではありません。でも、重症化を予防できる手段がひとつ増えたことは、本当に大きいです。あの時のような赤ちゃんを1人でも減らせる可能性があるなら、現場としては「よかったね」と思います。
interviewer:現場の方からすると「ようやくここまで来た」という感覚もあるのでしょうか。
小畑さん:ありますね。RSウイルスは、ずっと「赤ちゃんにとって怖い」と言われてきた病気です。でも、生まれてすぐの赤ちゃんを守る方法は限られていました。そこに、妊婦さんに接種して赤ちゃんに抗体を届けるという方法が加わった。これは本当に大きな前進だと思います。
interviewer:制度として無料になった背景には、そういう現場の切実さもあるんですね。
小畑さん:そうですね。ただ「新しいワクチンが増えました」という話ではなくて、そこには、これまで現場で見てきた重症化の怖さや、救いたくても難しかった経験があると思います。だからこそ、妊婦さんやご家族には、まずRSウイルスのことを知ってほしいです。そのうえで、ワクチンについても、産婦人科の先生と相談しながら考えてもらえたらと思います。
「本当に必要なの?」という声に、現場はどう感じているのか

interviewer:妊婦さん向けのRSウイルスワクチンが無料で受けられるようになった一方で、「妊婦さんにワクチンを打って大丈夫なの?」「RSウイルスって、そこまで怖いの?」と感じる人もいると思います。
小畑さん:そうですね。実際、ネット上でもそういう声は見ました。「妊婦さんに注射をするなんて」「本当に必要なの?」という反応はありましたね。
interviewer:そうした声を見ると、小児科の現場にいる立場としては、どんなふうに感じますか。
小畑さん:不安に思う気持ちは分かります。妊娠中は、お母さん自身も赤ちゃんのことをすごく気にしますし「できるだけ余計なものは入れたくない」と考える方がいても不思議ではありません。だから、その不安自体を否定したいわけではないんです。
interviewer:知らないからこそ、不安になる部分もありますよね。
小畑さん:まさにそうだと思います。RSウイルスで重症化した赤ちゃんを見たことがないと「ただの風邪じゃないの?」と思ってしまうのも無理はありません。でも、実際に呼吸が止まりそうになる赤ちゃんを見ている現場からすると、今回のワクチンが無料で受けられるようになったことは「よかったね」と感じる話なんです。
interviewer:「やっと予防の選択肢が増えた」という感覚に近いのでしょうか。
小畑さん:そうですね。RSウイルスの重症例を見たことがある医療者からすると「あんな状態になる赤ちゃんが少しでも減るなら、本当に意味がある」と思います。もちろん、ワクチンについて不安がある方は、産婦人科の先生に相談したうえで決めればいいと思います。ただ「よく分からないから怖い」で終わってしまうのは、もったいないなと感じます。
interviewer:ワクチンに限らず、医療の情報は不安をあおる形で広がることもありますよね。
小畑さん:ありますね。特に妊娠中や子育て中は、不安な情報ほど目に入りやすいと思います。「危ないらしい」「打たない方がいいらしい」といった言葉を見ると、どうしても気になりますよね。でも、その情報がどこから出ているのか、どんな根拠があるのかは、やっぱり確認してほしいです。
interviewer:不安になること自体は自然だけれど、そのまま判断しない方がいいということですね。
小畑さん:はい。怖いと思ったら、まずは聞いてほしいです。産婦人科の先生でも、小児科の先生でも、助産師さんでもいいと思います。「RSウイルスって何ですか?」「なぜ妊婦が打つんですか?」「うちの場合は受けた方がいいですか?」と、きちんと聞いていいんです。
interviewer:なるほど。知らないまま怖がるのではなく、知ったうえで選ぶことが大事なんですね。
小畑さん:そう思います。ワクチンは、誰かに言われたから何も考えずに打つものでもないし、なんとなく怖いから避けるものでもないと思います。RSウイルスが赤ちゃんにとってどういう病気なのか、なぜ妊婦さんへの接種が始まったのかを知ったうえで、納得して選ぶ。それが一番大事だと思います。
ワクチンの情報は、どこを見ればいいのか?

interviewer:RSウイルスワクチンに限らず、妊娠中や子育て中の医療情報って、ネットで調べるほど不安になることもありますよね。
小畑さん:ありますね。情報が多すぎるんです。しかも、妊娠中や子育て中って、どうしても赤ちゃんのことが心配なので、強い言葉や不安をあおる情報に引っ張られやすいと思います。
interviewer:「危ない」「やめた方がいい」と言われると、やっぱり気になりますよね。
小畑さん:そうなんです。でも、そこで大事なのは「誰が言っているのか」「どんな根拠で言っているのか」を見ることだと思います。SNSや個人の体験談も、参考になることはあります。ただ、それだけで判断してしまうのは危ないです。
interviewer:小畑さんとしては、どんな情報源を見てほしいですか。
小畑さん:まずは、厚生労働省やこども家庭庁のような公的機関ですね。あとは、小児科学会や小児科医会など、専門家の団体が出している情報も見てほしいです。そういうところは、多くのデータや現場の知見をもとに情報を整理しています。
interviewer:個人の発信ではなく、大きなデータを見ているところですね。
小畑さん:はい。個人の体験は、その人にとっては本当のことです。でも、それがすべての人に当てはまるとは限りません。医療はどうしても個人差がありますし、たまたま時期が重なったことが、原因のように見えてしまうこともあります。だからこそ、大多数のデータを蓄積しているところの情報を参考にしてほしいんです。
interviewer:公的機関の情報というと、少し難しそうなイメージもあります。
小畑さん:そうですね。でも最近は、こども家庭庁のホームページなどはかなり見やすくなっていると思います。子どもや子育てに関する情報が、以前よりも分かりやすく整理されていて「国のサイトだから読みにくい」と決めつけなくてもいいのかなと感じます。厚労省の情報ももちろん大事ですが、こども家庭庁のように、子育て世代に向けて情報を届けようとしている場所もあります。
interviewer:たとえば「この先生が言っているから正しい」と思ってしまうこともありますよね。
小畑さん:ありますね。医師や専門職の肩書きがある人が発信していると、それだけで信じたくなる気持ちは分かります。でも、権威があるように見える人の発信でも、学会や公的機関の情報と大きく違うことを言っている場合は、少し立ち止まった方がいいと思います。
interviewer:本を出している人や、有名な人の言葉でも、いったん確認する必要があると。
小畑さん:そうです。本になっているから全部正しい、フォロワーが多いから正しい、というわけではありません。医療情報は特に、根拠が大事です。「それはどこのデータなのか?」「学会ではどう言われているのか?」「厚労省の情報と矛盾していないか?」を見てほしいです。
interviewer:ただ、一般の人がそこまで調べるのは、なかなか大変でもありますよね。
小畑さん:本当にそうだと思います。だから、分からない時は医療者に聞いてほしいです。産婦人科の先生、小児科の先生、助産師さん、看護師さん。誰でもいいので、信頼できる人に「ネットでこういう情報を見たんですけど、本当ですか」と聞いていいと思います。
interviewer:ネットで見た情報を、そのまま1人で抱え込まなくていいんですね。
小畑さん:はい。むしろ聞いてほしいです。不安な情報を見て、ひとりで判断してしまう方が怖いと思います。医療者側も、質問してもらえれば説明できます。「こんなこと聞いていいのかな?」と思わずに、ぜひ聞いてほしいです。
interviewer:情報を集めること自体は大事だけれど、見方を間違えないことも同じくらい大事なんですね。
小畑さん:そうですね。今は情報が多い分、何を信じるかが本当に難しい時代です。だからこそ、SNSや個人の発信だけで決めるのではなく、公的機関や専門団体の情報を見たり、医療者に相談したりしながら判断してほしい。赤ちゃんを守るためにも、そこはとても大事だと思います。
知らないまま怖がるのではなく、知ったうえで選ぶために

interviewer:ここまで伺ってきて、RSウイルスワクチンが無料になったというのは、単に「新しい制度が始まりました」という話ではないんだと感じました。
小畑さん:そうですね。現場では、RSウイルスで重症化する赤ちゃんをずっと見てきました。だからこそ、妊婦さんに接種して、生まれてすぐの赤ちゃんを守るという選択肢ができたことは、本当に大きいと思います。
interviewer:でも一方で、妊婦さんにとっては「ワクチンを打つ」と聞くだけで不安になることもありますよね。
小畑さん:もちろんあると思います。妊娠中は、食べるものひとつ、薬ひとつでも気を使う時期ですから、「本当に大丈夫なのかな」と思うのは自然なことです。だから、私は「全員が何も考えずに打てばいい」と言いたいわけではありません。
interviewer:強制ではなく、きちんと知ったうえで選ぶものだと。
小畑さん:はい。ワクチンは、強制されて受けるものではないと思います。ただ、知らないまま怖がって避けてしまうのは、少しもったいないなとも感じます。RSウイルスがどんな病気なのか、生後まもない赤ちゃんにとって何が怖いのか、なぜ妊婦さんに接種するのか。そこを知ったうえで、受けるかどうかを考えてほしいです。
interviewer:まずは、妊婦健診の時などに相談してみるのが良さそうですね。
小畑さん:そうですね。気になる方は、通っている産婦人科の先生や助産師さん、看護師さんに聞いてみてほしいです。「RSウイルスワクチンについて聞いたんですが、私は対象ですか?」「受けるとしたら、どのタイミングですか?」「不安な点があります」と、そのまま聞いていいと思います。
interviewer:知らないまま1人で悩むより、医療者に確認した方がいいですね。
小畑さん:はい。ネットで調べることも悪いことではありません。でも、不安な情報だけを見て1人で抱え込むより、実際に診てくれている医療者に相談する方が安心につながると思います。妊娠の経過や体調は人によって違うので、自分の場合はどうなのかを確認することが大切です。
interviewer:最後に、これから出産を迎える妊婦さんやご家族に伝えたいことはありますか。
小畑さん:RSウイルスワクチンが無料になった背景には、赤ちゃんを守りたいという現場の積み重ねがあると思っています。怖がらせたいわけではありません。でも、RSウイルスは小さい赤ちゃんにとって命に関わることがある病気です。だからこそ、まずは知ってほしい。知ったうえで、自分たちにとって必要かどうかを考えてほしいです。
interviewer:知らないまま怖がるのではなく、知ったうえで選ぶ。そのための情報として、今回のお話が届くといいですね。
小畑さん:そうですね。赤ちゃんを守るための選択肢がひとつ増えたということを、必要な人にきちんと知ってもらえたら嬉しいです。



