横浜市F・Kさん 不安症の私が選んだ無痛/横浜市立市民病院
ドラッグストアで働くF・Kさんは、自分は痛みに弱く、不安になりやすい性格だと感じていて「出産するなら無痛分娩で」と早い段階から決めていました。出産の場に選んだのは、無痛分娩を導入したばかりの横浜市立市民病院。計画無痛分娩で迎えた当日の流れ、麻酔で痛みが消えた瞬間、産後に残ったリアルな痛みや心のしんどさ、そして「無痛分娩はズルじゃない」と感じている理由までを、率直に語ってくれました。
【基本data】
■name/F・Kさん
■年齢/26歳
■お住まいのエリア/神奈川県横浜市
■家族構成/夫+妻+子ども1人
■出産施設/横浜市立市民病院
■無痛分娩回数/1回
■無痛分娩費用/約45万円(約94万円[基本費用+無痛分娩費用〔15万円〕+個室代等]−出産育児一時金49万円)
■無痛分娩実施時期/2024年7月
取材時期:2025年1月
痛みに弱く、不安も強い。だからこそ「無痛分娩で産みたい」と決めていた

interviewer:まず最初に、今のお仕事や、妊娠前の生活について少し教えていただけますか。
F・Kさん:はい。ドラッグストアで正社員として働いていました。食品も扱っている店舗なので、スーパーのような仕事もしつつ、お薬の売り場も担当している、みたいな感じです。
interviewer:かなり忙しそうですね。
F・Kさん:そうですね、やることは結構多いです。薬剤師ではないんですけど、登録販売者の資格を取って、市販薬の販売にも関わっていました。お客さんから体調の相談を受けることもあって、普段から健康や医療の情報には触れている環境でした。
interviewer:その中で「無痛分娩」という言葉を知ったきっかけは何だったんでしょう。
F・Kさん:仕事が直接きっかけではなくて・・・単純に、ネットで調べものをするのが好きなんです。妊娠を意識し始めた頃から、いろんなワードを検索していた中で「無痛分娩」という言葉を何度か目にして。「最近は無痛分娩を選ぶ人も増えているんだな」と思って、そこから少しずつ情報を集めるようになりました。
interviewer:SNSとかも見ていたんですか。
F・Kさん:はい、主にSNSと、個人のブログみたいな体験談ですね。あとは、芸能人の方が出産の様子をYouTubeで話している動画もあって「無痛分娩を選びました」という人のエピソードをいくつか見ました。メリット・デメリットの両方が書いてあったので「いいことばかりじゃないけど、選択肢としてはアリなんだ」と感じたのを覚えています。
interviewer:ご自身が妊娠された時「無痛分娩を選ぼう」と決めたのは、どんな理由からでしたか。
F・Kさん:もう、とにかく痛みに弱いんです。昔から注射も苦手ですし、生理痛も重い方で・・・出産の痛みの話を聞くたびに「自分は耐えられるんだろうか」とすごく不安でした。もともと不安になりやすい性格で、考えすぎてしまうところもあって。
だから、妊娠がわかった時には「できるなら絶対に無痛分娩にしたい」と、かなり早い段階から思っていました。自然分娩か無痛分娩かを迷うというより「選べるなら無痛一択」という感覚に近かったですね。
interviewer:その気持ちは、妊娠初期の頃からずっと変わらず?
F・Kさん:そうですね。調べれば調べるほど怖くなるタイプなので「何も対策せずに“自然に任せる”という選択肢は、自分には向いていないな」と感じました。痛みそのものへの怖さもあるし、パニックになって冷静でいられなくなる自分も想像できたので・・・。
むしろ「無痛分娩を選ぶことで、少しでも落ち着いてお産に向き合えるなら、その方が母子ともに安全なんじゃないか」と考えるようになりました。
interviewer:ご主人には、いつ頃その気持ちを伝えたんでしょうか?
F・Kさん:妊娠がわかって、割とすぐだったと思います。「もし無痛分娩ができる病院があれば、そっちを選びたい」と話しました。
interviewer:どんなリアクションでしたか?
F・Kさん:特に反対はなくて「いいんじゃない?できるならそうしようよ」という感じでした。費用のことも気にはしていたと思うんですけど「痛みが少なくて済むなら、その方がいいよね」と割とあっさり受け入れてくれました。
NICUのある横浜市立市民病院を選んだ理由

interviewer:無痛分娩について調べる時はどんなふうに情報を集めていましたか。
F・Kさん:本当にほぼネット頼みでした。個人のブログで「無痛分娩レポ」みたいな記事をいくつも読んだり、XやInstagramで「無痛分娩」で検索して体験談を追いかけたり。あと芸能人の方がYouTubeで「無痛分娩でした」と話している動画も見ました。メリットだけじゃなくて「効きづらかった」とか「副作用がつらかった」という話もセットで書かれていたので、良い面と怖い面の両方を見ながら自分なりに心構えを作っていった感じです。
interviewer:そうやって情報を集めていく中で、ご自身の気持ちはどう動いていきましたか?
F・Kさん:調べれば調べるほど不安材料も出てくるんですけど、それでも何も知らずに痛みに耐える方が私には怖かったです。副作用のリスクや効き具合に個人差があることも理解したうえで、それでも選びたいと思うようになりました。
interviewer:出産する病院はどのように選んでいきましたか。
F・Kさん:最初は自宅近くのクリニックで妊婦健診を受けていました。その先生から「出産はうちではできないので、この辺だとこういう病院がありますよ」と候補をいくつか挙げてもらって、その中から自分たちで考える形でした。自宅からの距離を考えたり、規模感を見たりしながら話し合って、最終的に横浜市立市民病院を選びました。
interviewer:横浜市立市民病院に決めたポイントを教えてください。
F・Kさん:1つは自宅から比較的近かったことです。何かあった時にあまり遠いと不安なので。もう1つが夫の一言でした。夫がNICUがあるような大きい病院の方が安心なんじゃないかと言ってくれて、もし赤ちゃんに何かあってもすぐ新生児の専門の先生が対応してくれる環境の方がいいよねという話になって。距離と設備の両方を考えて、横浜市立市民病院が一番しっくりきたという流れです。
interviewer:最初のクリニックの先生からは、出産する病院についてどんな話がありましたか。
F・Kさん:その先生は以前、横浜市立市民病院で働いていた方だと、あとから聞きました。そこから独立してクリニックを開業した先生だったので、病院側の状況もよく知っていたみたいです。「今度横浜市立市民病院で無痛分娩を導入するみたいだよ。タイミングも合いそうだし、希望するなら相談してみたら」と教えてくれて。ちょうど私が出産したのが2024年7月で、無痛分娩が導入されたのはその数か月前。まさに始まったばかりのタイミングだったみたいです。
interviewer:導入して間もないと聞くと不安になる人もいると思いますが、そのあたりはどう受け止めていましたか。
F・Kさん:そこはあまり不安には感じませんでした。大きな病院で麻酔科の先生がきちんと関わってくれると聞いていたので。ネットでも「無痛分娩は麻酔科医が担当している方が安心」という情報を見ていましたし、横浜市立市民病院ならその体制は整っているだろうと考えました。もちろん新しく始まったと聞いて全く心配がなかったわけではありません。でも小さなクリニックで手探りでやるイメージではなくて、ある程度マニュアルや体制を整えたうえでスタートしているはずという安心感の方が大きかったです。
interviewer:病院の無痛分娩の体制について印象に残っている点はありますか。
F・Kさん:一番印象に残っているのは、麻酔が使える時間帯が決まっていたことです。平日の日中だけで、朝8時か9時くらいから夕方5時まで。「5時を過ぎてそこから長引きそうだったら麻酔は切ります」という説明がありました。24時間いつでも対応というわけではなかったんです。
interviewer:その説明を聞いた時どんなことを感じましたか。
F・Kさん:正直、夜にずれ込んだらどうなるんだろうという不安はありました。せっかく追加料金を払って無痛分娩を選んだのに、その時間内に生まれなかったらどうなるのかな、とか。こればかりは赤ちゃん次第なので誰にもコントロールできないですよね。だからこそ、うまく時間内に収まるといいけれど、もし外れたら少し割り切るしかないのかなと自分の中で覚悟をしておきました。
interviewer:なるほど。
F・Kさん:それでもNICUがあることや大きな病院としての安心感、麻酔科の先生がいることを考えると、トータルで見ればここが一番自分たちに合っていると思えたので、横浜市立市民病院で出産することを決めました。
出産日が決まっている安心感。前日から“心の準備”ができた

interviewer:計画無痛分娩だと、事前に「この日に出産に向けて動きます」とスケジュールが決まりますよね。前日から当日の朝までは、どんなふうに過ごしていましたか。
F・Kさん:前日はお昼ごろに入院しました。病院に着いてからは、血液検査や心電図みたいなチェックをしてもらって、あとは翌日のための説明を受ける、という感じで、この日は特に処置はなくて。
interviewer:体の準備というより「明日に向けた確認と説明」が中心だったんですね。
F・Kさん:そうですね。翌日の流れを聞いて「明日は朝早くからLDR(陣痛・分娩・回復を同じ部屋で行う部屋)に移動してスタートしますよ」と説明されました。食事も、当日の朝からは何も食べられないと言われていたので「じゃあ今のうちにしっかり食べておこう」とか、そういうことを考えながら過ごしていました。
interviewer:前日って、緊張で眠れないという声もよく聞きます。F・Kさんはどうでしたか。
F・Kさん:緊張はしていましたけど、「明日の朝からこういう順番で進んでいきます」と聞けていたので、意外と落ち着いていました。いつ陣痛が来るのか分からない状態で家にいるより「明日のこの時間から始まる」と決まっている方が、私の性格には合っていたと思います。
interviewer:当日の朝は、どんなスタートでしたか。
F・Kさん:朝7時くらいにLDRに移動しました。その前に起きて着替えたり、軽く身支度をしたりして「いよいよ今日なんだな」と気持ちを切り替えていきました。朝ごはんは出ないので、水分をどうするかなども看護師さんと確認しながら「ここから本格的に始まるんだ」と。
interviewer:その時点で、陣痛はまだ来ていなかったんですよね。
F・Kさん:はい、その時点ではほとんど何もなくて、子宮口が少し開いているくらいでした。なので、午前中のうちに陣痛を促すお薬を使っていきましょう、という説明を受けました。「この時間からこういう処置をしていきます」と1つひとつ教えてもらえたので、怖さもありつつ「よし、じゃあここから頑張ろう」と腹をくくれた感じです。
interviewer:「今日、ここから出産まで進んでいく」というのが、スケジュールとしても、気持ちとしても見通せていたんですね。
F・Kさん:はい。もちろん、予定通りにいかないこともあるとは分かっていましたけど「とりあえず今日はここにいればいい」「この部屋で出産まで完結する」というのが分かっているだけで、安心感は大きかったです。
麻酔で世界が一変。「痛みが消えた」瞬間

interviewer:陣痛の痛みが強くなってきた時、体の様子や気持ちはどんな感じでしたか。
F・Kさん:最初のうちは「これが陣痛かな」くらいの軽い痛みだったんですけど、人工破水をしてから一気に本格的になっていきました。時間が経つごとに波がどんどん強くなって、11時前くらいには、痛みが来るたびに思わず声が出てしまうくらいで・・・。立っていても座っていてもつらい、という状態でした。
interviewer:その後、麻酔を入れる流れになった時のことを教えてもらえますか?
F・Kさん:子宮口が5cmくらいまで開いたところで「そろそろ麻酔入れましょうか」と言われて、そこから準備が始まりました。その少し前が一番つらかったです。波が来るたびに体が固まってしまって「早く麻酔してほしい」とずっと思っていました。
interviewer:麻酔が入ったあとは、どんな変化がありましたか。
F・Kさん:本当に、世界が変わったみたいでした。さっきまで「うう・・」と声が漏れるくらい痛かったのに、スーッと痛みが引いていって。「あれ、さっきの痛みどこに行ったんだろう」と思うくらい、一気にラクになりました。無痛分娩の体験談で「効きづらい人もいる」と読んでいたので、正直ちょっと不安もあったんですけど、私の場合はすごく効きが良かったみたいです。
interviewer:麻酔については、事前にどんな説明を受けていましたか。
F・Kさん:「全く何も感じないようにする」というよりも、最後は少し痛みを残すという方針だと説明を受けていました。実際も、最初に麻酔を入れた直後はほぼ痛みゼロに近い状態で、そのあと少しずつ「張ってきたな」「圧がかかってきたな」という感覚が戻ってきて。耐えられない痛みではなくて「今、お産が進んでいるんだな」と分かる程度の感覚でした。
interviewer:痛みが和らいだことで、気持ちの面ではどんな変化がありましたか。
F・Kさん:かなり余裕が出ました。麻酔が入る前は、次の波が来るのが怖くて、それだけで頭がいっぱいだったんです。効き始めてからは、助産師さんと普通に会話したり、夫とこれからのことを話したりできるくらい落ち着いて。「これが無痛分娩か!」と、その時に実感しました。
interviewer:無痛分娩を実際に経験してみて、当初のイメージと比べてどうでしたか。
F・Kさん:イメージしていたより、かなりラクでした。もちろん、その後の処置や産後の傷の痛みはしっかりありますし「楽勝」というわけではありません。でも、あのピークの陣痛をずっと耐え続けることを考えると・・・「選んでよかった」と素直に思えるくらいの違いがありました。
夫はスマホ、私は陣痛。それでも心強かった理由

interviewer:出産当日のことを振り返って、旦那さんがそばにいた時の様子で印象に残っていることはありますか。
F・Kさん:基本的には、ベッドの横の椅子に座ってスマホをいじってました。ちょうど新しくインストールしたパズルゲームがあったみたいで「こういうゲームなんだよ」って画面を見せてきたり。私も痛みがほぼなくて余裕があったので「ふーん、そんなゲームなんだ」みたいな感じで一緒に眺めていました。
interviewer:その時の旦那さんの過ごし方を見ていて、どんなふうに感じていましたか。
F・Kさん:合間にマンガを読んだりもしていたと思います。ただ、ずっと好き勝手にしていたというよりは「今何かやることある?」「こうしてて大丈夫?」って、ちょくちょく聞いてくれていました。私が「好きにしてていいよ」と何度も伝えていたので「じゃあゲームしてるね」みたいな流れでした。
interviewer:横でスマホを触っている時間が長かったとしても、それ自体にはあまりネガティブな感情はなかったんですね。
F・Kさん:全然なかったです。麻酔が効く前の一番きつい時間帯は、ちゃんと背中をさすってくれたり、腰を押してくれたりしていましたし、その山場を越えてからの時間だったので「今は本当にやることないし、いてくれるだけで十分」と思っていました。もし麻酔なしで陣痛がずっと続いていたら「なんでゲームしてるの」ってイラっとした可能性はあると思いますけど、今回はそういう状況ではなかったですね。
interviewer:旦那さんのスタンスについては、どんなふうに受け止めていますか。
F・Kさん:もともと「あとで怒られないように先に確認しておこう」みたいなタイプで、日常生活でも「こうしようと思うけど大丈夫?」って聞いてくる人なんです。出産当日もそれは同じで「ここにいていい?」「今これやってても平気?」って、その都度ちゃんと聞いてくれていました。私としては、それだけで「ちゃんとこちらを気にかけてくれている」と感じられて心強かったです。
interviewer:立ち会い出産をしてもらって、特に良かったと感じているのはどんな点ですか。
F・Kさん:「ひとりで戦っている感じ」にならなかったことですね。麻酔のおかげで体はすごく楽だったんですけど、それでも出産そのものが初めての経験で、不安とか緊張はゼロにはならないので。そういう時に、いつもの口調で隣にいてくれる人がいるだけで、気持ちの負担が全然違いました。「何しててもいいから、とりあえずそばにいてくれればそれでいい」という感覚に近かったと思います。
麻酔が切れたあとに知った“産後のリアルな痛み”

interviewer:出産が終わってからのことも、お話を伺わせてください。まず、麻酔が少しずつ切れてきた頃のことは覚えていますか。
F・Kさん:覚えていますね。私の場合は、最初にちょっと多めに麻酔を入れてもらって「効きが弱くなってきたら、このボタンで追加してね」と説明されていました。でも、たまたま効きが良かったみたいで、結局そのボタンは一度も押さずに済んだんです。
interviewer:追加の麻酔なしで、そのままお産まで進んだんですね。
F・Kさん:はい。だんだん効き目が弱くなってきて「あ、少しずつ痛みが戻ってきてるな」とは感じていました。でも、そのおかげでいきむ感覚もちゃんと分かりましたし「全然分からないまま産んじゃった」という感じではなかったです。ただ、出産が終わってからが本番というか・・・そこで「産後の痛みってこういうことか」と思い知りました。
interviewer:出産直後、特にどんな痛みがつらかったですか。
F・Kさん:一番つらかったのは、切開したところを縫っている時の痛みですね。麻酔がちょうど切れかけているタイミングだったのか、ずっとチクチクした痛みが続いていて。「まだ痛いです」と伝えたら局所麻酔も追加してくれたんですけど、それでも「う・・・まだ痛い・・・」という感じで。赤ちゃんは無事に産まれてホッとしているのに、自分の体の方が全然落ち着かなくて、それがきつかったです。
interviewer:麻酔が完全に切れてからは、どんなふうに変わっていきましたか。
F・Kさん:「いきなりドンと来た」というよりは、じわじわと痛みが強くなっていく感じでした。特に、お尻に体重がかかる瞬間が一番つらくて。出産後しばらくして「少し体を起こしてご飯にしましょう」と言われて起き上がった時、イスやベッドに座った瞬間に「い、痛い・・・」って声が出るくらいでした。ドーナツクッションがないと、とてもじゃないけど座っていられない、というレベルでしたね。
interviewer:その痛みには、どのくらいのあいだ悩まされましたか。
F・Kさん:入院中はずっと痛かったです。痛み止めも飲ませてもらっていましたが「飲めばゼロになる」という感じではなくて「なんとか耐えられるレベルまで下がる」くらい。歩く時も、座る時も、寝返りを打つ時も、常に「傷がそこにある」と意識させられるような痛みでした。
interviewer:退院してからは、少しずつ落ち着いていきましたか。
F・Kさん:そうですね。完全に「もう痛くない」と言えるようになったのは、産後1か月くらい経ってからだったと思います。そこまでは、強さに波はありつつも、何をするにも傷をかばいながら生活している感じでした。体力的には「動けないほどしんどい」ということはなかったのですが、とにかく傷の痛みが常に背景にあるので、気持ち的にも余裕がなくなりますよね。
赤ちゃんは24時間体制。体より先に、心が限界に近づいた

interviewer:退院までの入院生活は、どんなふうに感じていましたか?
F・Kさん:一言で言うと、もう本当にずっと忙しかったです。大きな病院で、基本は母が赤ちゃんを24時間みるスタイルだったので、生まれたその日から「今日の夜から一緒にがんばろうね」という感じでスタートして。自分の体もしんどいのに、授乳やオムツ替え、検査や指導の時間もあって、全然「休む時間」が見つからないまま時計だけが進んでいきました。
interviewer:休みたくても休めない感覚だったんですね。
F・Kさん:そうですね。傷も痛いし、寝不足だしで「どこかで少し横になりたいな」と思って助産師さんに弱音を吐いたこともあったんです。でも返ってくるのは「休める時に休んでくださいね」という言葉で。もちろん間違ったことは言っていないんですけど、実際にはいつがその「休める時」なのか、自分では全然わからなくて。「今も赤ちゃんが泣いているし、次の授乳時間も近いし・・・いつ休めばいいんだろう」と悩みながら、気持ちだけがどんどん追い詰められていきました。
interviewer:心の方が先に限界に近づいていった感じでしょうか?
F・Kさん:まさにそんな感じでした。体力的には、無痛分娩だったおかげもあって、思っていたより早く動けるようにはなっていたと思います。でも夜も細切れにしか眠れなくて、傷の痛みも残っていて、赤ちゃんは24時間体制でお世話が必要で・・・とにかく心が休まらないんですよね。ある日「もう無理かもしれない」とふっと思ってしまって、急に涙が止まらなくなったことがありました。
interviewer:面会などでご家族に会える時間はありましたか?
F・Kさん:最初の数日は、家族が順番に顔を出してくれていました。でも入院している途中で新型コロナの流行状況が悪化して、病院全体で面会禁止になってしまって。ちょうど「明日は夫が来ようかな」と話していたタイミングだったのですが、その日からぱったり誰とも会えなくなりました。夫とも直接会って話せない状態が続いて、余計に孤独感が強くなったと思います。
interviewer:そうした環境の中で、どんなふうに気持ちを保っていたのでしょうか?
F・Kさん:正直、保てていた自信はあまりないです。でも「今はこういう時期なんだ」と自分に言い聞かせたり、母親学級で習ったことを思い出したりしながら、なんとか目の前のことをこなしていく感じでした。あとは「体力だけはまだ残っているはず」と思えたのは救いだったかもしれません。もし無痛分娩じゃなかったら、もっと体もきつくて、余計に追い込まれていたんだろうなとは感じます。
interviewer:無痛分娩を選んだからこそ、ギリギリ踏みとどまれた感覚もありますか?
F・Kさん:ありますね。産後の痛みや睡眠不足は覚悟していた以上にきつかったですけど、それでも「体が動く」「授乳やお世話はできる」という感覚はありました。だからこそ、心がボロボロになりかけても「ここを乗り切ればきっと落ち着いてくる」と思えたのかなと感じています。
無痛分娩はズルじゃない。私が感じたメリットと現実

interviewer:ここまで振り返ってみて、まず「無痛分娩にして良かった」と感じている点を教えてください。
F・Kさん:一番良かったのは、計画無痛分娩だったので、出産の日に夫がしっかり立ち会えたことです。あらかじめ「この日に産む予定です」と決まっていたので、夫も仕事の休みを合わせやすくて。初めての出産を一緒に迎えられたのは、本当に大きかったと思います。
interviewer:なるほど。
F・Kさん:もう1つは、ものすごく強烈な「痛みの記憶」が残っていないことです。もちろん全く何も感じなかったわけではないですけど「あの痛みは二度と嫌だ」と思うようなトラウマにはなりませんでした。振り返ると「大変だったけど、もう1人産むことになっても、まあ何とかなるかもしれない」と思えるくらいには、気持ちに余裕が残っています。
interviewer:それは無痛分娩の大きなメリットかもしれませんね。
F・Kさん:出産直後の体力が残っていたのも、すごく大きかったです。傷の痛みはありましたが、体が動かないほどぐったりしている感じではなくて「これから育児が始まるんだ」というスタートラインには何とか立てていた感覚があります。無痛じゃなかったら、体力もメンタルももっとギリギリだったかもしれないと思います。
助成制度が広がる時代に、無痛分娩をどう選ぶか?

interviewer:一方で、無痛分娩ならではの「難しさ」や「気になるところ」もあったとのことですが、そのあたり、改めて教えていただけますか。
F・Kさん:やっぱり費用面は大きいと思います。私の場合は無痛分娩の追加料金が15万円くらいかかりました。結果的に自己負担は4〜5万円で済みましたが、誰にでも勧められる金額ではないなと感じます。効き方にも個人差がありますし「高いお金を払ったのに、あまり効かなかった」というケースもゼロではないと思うので、その意味でも難しさはありますよね。
interviewer:たしかに、金額の大きさと「効き方に個人差がある」という点は、迷いやすいポイントですよね。
F・Kさん:今後、東京都で無痛分娩の助成金が出るという話も聞きました。費用のハードルが下がるのは良いことだと思う一方で「じゃあ医師や麻酔科の先生はちゃんと足りるのかな」という不安も少しあります。制度だけ整っても、現場の体制が追いつかなかったら、トラブルが増えてしまうのでは・・と。そこは正直、気になる部分です。
interviewer:なるほど。F・Kさん医療の現場のことまで想像できるのはすごいですね!
F・Kさん:それでも、選択肢として無痛分娩があること自体は、すごく意味があると思っています。私は妊娠中ずっとつわりがきつくて、最初から最後まで吐いているようなタイプだったので「どこかで一瞬でも楽になれる時間があるなら、それだけでもありがたい」と感じていました。麻酔を使っておけば、必要に応じて帝王切開に切り替えやすいという話も聞きますし、状況に応じた選択肢が広がるという点でも価値があると思います。
interviewer:つらい妊娠期間を過ごしてきたからこそ、「少しでも楽になれる時間があること」に救われた、という感覚なんですね。
F・Kさん:だから、無痛分娩は決してズルではないし「楽をしている」と言われるようなものでもないと感じています。リスクも費用も含めて現実をきちんと知ったうえで、それでも自分にとって必要だと思えば選んでいい。そういう選択肢として広まっていくといいなと思います。
interviewer:無痛分娩のメリットも難しさも、すごくリアルに伝わるお話でした。F・Kさん、今日はここまで率直に話してくださって、本当にありがとうございました。




