助産師×小児看護 谷川さん 実はぜんぜん違う?助産師と小児看護の専門領域
助産師と小児看護。一見すると近い仕事に思えますが、実は専門領域には大きな違いがあります。産後1か月を過ぎると、助産師とお母さんの関わりが少なくなり、育児の悩みを誰に相談すればいいのか分からなくなることも。そんな産後支援の課題に向き合うのが、助産師としての経験を持ちながら、小児科で働く谷川さんです。小児科に助産師がいることで、親子にどんな支援ができるのか。谷川さんの経験と、これからの産後支援への思いを伺いました。
谷川 萌さんPROFILE
総合病院の産婦人科病棟で助産師として約5年半勤務し、出産介助や産後のお母さん、新生児などのケアに携わる。その後、行政の訪問指導員として約4年間、子育て家庭への赤ちゃん訪問を経験。そこで産後1ヶ月以降の母子を支えるためには小児科領域の知識が必要だと感じ、2019年から小児科クリニックで勤務。現在は助産師と小児看護、双方の経験を生かして親子を支援するとともに、助産師向けの母乳ケア研修などを通じて、小児科と助産師をつなぐ活動にも取り組んでいる。
小児科で働いて驚いた。「助産師の知識で通用したのは体感2割」

interviewer:本日はよろしくお願いします。まず簡単に、谷川さんの現在のお仕事について教えていただけますか?
谷川さん:よろしくお願いします。私はもともと助産師として産婦人科で働いていて、今は小児科クリニックで働いています。
interviewer:助産師さんが小児科で働くって、業界的に珍しいんですか?
谷川さん:珍しいと思います。私自身、小児科で働き始めてから「助産師さんなのに小児科なんですか?」って珍しがられることが多くて。私が知っている範囲でも、小児科に助産師外来があったり、助産師がいる特別な枠を設けていたりするところは、本当に少ないですね。
interviewer:我々からすると、助産師さんって「お母さんと赤ちゃんの専門家」というイメージがあるので、小児科ともかなり近そうに感じるんですよね。
谷川さん:そうですよね。でも、実際は結構違うんです。助産師学校では「女性の一生を支えるのが助産師」と教わるので、もちろん全体的なことは学びます。でも、実習でみっちり関わるのは、基本的には妊娠期から産後1ヶ月くらいまでなんです。
interviewer:あ、産後1ヶ月までなんですね。
谷川さん:そうなんです。産婦人科で働いていても、産後のお母さんは4日とか5日くらいで退院されますよね。1ヶ月健診が終わった後のお母さんや、生後2ヶ月、3ヶ月になった赤ちゃんと助産師が関わる機会って、実はそんなにないんです。だから「そこから先は全然知らないです」という助産師も、結構多いんじゃないかなと思います。
interviewer:じゃあ、生後1ヶ月を過ぎると、小児科など別の専門領域にバトンタッチしていくような感じなんですか?
谷川さん:そうですね。そこからは小児科の先生や看護師さん、保育士さんなど、それぞれの専門の方が関わっていくことになります。助産師じゃなければならない、という相談内容は少しずつ減っていくイメージです。
interviewer:谷川さん自身は助産師として産婦人科で働いたあとに小児科へ行かれたわけですが、実際に働いてみてどうでした?
谷川さん:もう全然違いました(笑)。
interviewer:そんなにですか(笑)。
谷川さん:はい。助産師として持っていた知識で通用したのは、体感でいうと2割くらいです。
interviewer:2割だけ! それはほぼ別ジャンルですね(笑)。
谷川さん:そうなんですよ(笑)。新生児だったら「この時期はこうだよ」と助産師としての知識で話せることもあります。でも、生後2ヶ月以降になると、病気や薬、予防接種もありますし、離乳食、卒乳、断乳とか、産婦人科ではなかなか出会わなかった相談もどんどん出てきます。赤ちゃんの身体の動きも違えば、お母さんたちの悩みも全然違うんです。
interviewer:助産師の資格を持っているから、そのまま小児科でも何でも分かる、というわけではないんですね。
谷川さん:そうなんです。私も小児科で働き始めて最初の1年間は、病気から薬、予防接種まで全部勉強し直しました。その次の1年間は乳房管理の資格を取りに行ったり、離乳食アドバイザーやベビーマッサージの資格を取ったりして。本当に2年間はめちゃくちゃ学びましたね。
interviewer:そこまで違う世界なのに、どうして谷川さんは小児科へ行こうと思ったんですか?
谷川さん:それは、助産師として産後のお母さんたちに関わる中で「産後1ヶ月を過ぎたあとのお母さんたちは、いったい誰に相談したらいいんだろう?」と感じるようになったことが大きかったですね。
1ヶ月健診が終わったら「じゃあ頑張ってね」。産後支援に生まれる空白

谷川さん:総合病院で助産師として働いていた時、私はお産そのものより、産後のお母さんたちと関わる時間がすごく好きだったんです。
interviewer:具体的には、どんなことをされていたんですか?
谷川さん:例えば、母乳育児をしたいお母さんだったら「どうしたら母乳がよく出るかな」とか「どうしたら赤ちゃんが上手に吸ってくれるかな」とか。お母さんと一緒に話しながら「こうしてみようかな」「ああしてみようかな」って考えていくのが、すごく好きだったんですよね。
interviewer:でも、産婦人科で関われる期間は短いんですよね。
谷川さん:そうなんです。産後のお母さんが入院しているのって、4日とか5日くらいなんですよ。楽しそうに帰っていく方もいれば「大丈夫かな」「不安です」っていう方もいて。そういうお母さんたちを見送るうちに「退院したあと、どんなことに困ってるんやろう」「しんどくないかな」って気になるようになったんです。
interviewer:そう思うようになって、その後はどうされたんですか?
谷川さん:5年半勤めた総合病院を退職して、行政の子育て家庭を訪問する訪問指導員の仕事を始めました。そこで、生後2〜3ヶ月くらいの赤ちゃんがいる家庭にも行くようになったんです。
interviewer:そこで初めて、病院を退院したあとの親子と関わるようになったんですね。
谷川さん:そうなんです。そしたら、産婦人科で学んできたことと全然違って。生後1ヶ月までのお母さんや赤ちゃんに伝えていたことと、生後2ヶ月以降のお母さんや赤ちゃんに必要なことって、悩みも違えば、アドバイスも全然違ったんです。
interviewer:助産師として経験を積んできても、そこから先は知らないことがたくさんあったと。
谷川さん:そうですね。それに、実際にお母さんたちに話を聞いていると「1ヶ月健診が終わったら、じゃあ頑張ってね、みたいな感じで卒業になって、そこから私、どこに相談したらいいんやろうって、放り出された感じになる」という声もあったんです。
interviewer:なるほど。お母さん側からすると、それまで助産師さんにいろいろ相談していたのに、1ヶ月健診を境に相談先が分からなくなってしまうことがあるんですね。
谷川さん:ほんまにそうなんです。しかも、生後2ヶ月からは予防接種が始まりますよね。その産後1ヶ月から生後2ヶ月くらいまでの「誰に相談したらいいんやろう」という空白期間を、なんとか埋めたいという思いもありました。
interviewer:訪問のお仕事をする中で、特に印象に残っているお母さんはいますか?
谷川さん:います。訪問を始めて間もない頃に、今思えば産後うつになっていたんじゃないかな、というくらい、すごくしんどそうなお母さんに出会ったんです。赤ちゃんも湿疹だらけで、痒くて夜も寝てくれないし、機嫌も悪い。お母さんも疲れ切っていて、旦那さんは昼間仕事があるから、夜もなかなかサポートをお願いできない状態でした。
interviewer:かなりいろいろな問題が重なっていたんですね。
谷川さん:そうなんです。でも、そのお母さんを前にして「私は何て声をかけてあげたらいいんだろう」って。自分の引き出しが少なすぎて、唯一言えたのが「湿疹もひどいし、一度小児科に行ってみはったらどうですか」くらいだったんです。
interviewer:その時、谷川さん自身はどう感じたんですか?
谷川さん:「私、何のためにこの人のところに訪問したんやろう」って、ものすごく無力感がありました。このままじゃダメやなって。それで「今の自分に足りていなくて、このお母さんたちに必要な知識って何だろう」と考えた時に、小児科をもう一度ちゃんと学んだ方がいいと思ったんです。
interviewer:それで初めて、小児科で働こうと考えたんですね。
谷川さん:はい。修行するような気持ちで、小児科で働き始めました。
小児科では「子ども」を診られても「お母さん」の悩みに答えきれない

interviewer:実際に小児科で働き始めてみて、助産師がいる意味を感じることはありましたか?
谷川さん:ありましたね。小児科に来るのはもちろん赤ちゃんや子どもなんですけど、一緒に来るお母さんもいろいろな悩みを抱えているんです。
interviewer:例えば、どんな悩みですか?
谷川さん:例えば、赤ちゃんの体重が増えていないという相談だったとしても、赤ちゃんだけを見ればいいわけじゃないんですよね。お母さんのおっぱいが足りていないのか、授乳回数が少ないのか、お母さん自身が疲れていて赤ちゃんとなかなか関われていないのか。いろいろなことが考えられます。
interviewer:なるほど。赤ちゃんに出ている問題でも、お母さん側に原因やヒントがあることもあるんですね。
谷川さん:そうなんです。逆に、小児科に来たお母さんが看護師さんに「実はおっぱいが痛くて」と相談することもあります。でも、そこに助産師がいなかったら「ここではどうしようもできないから、助産院を探してみてね」くらいしか言えないこともあるんですよね。
interviewer:小児科の先生や看護師さんでも、母乳や授乳の専門的な相談になると難しい?
谷川さん:そうですね。もちろん、ご自身の子育て経験から「私はこうしていたよ」と言えたり、いろいろなお母さんから聞いた経験談を伝えたりはできると思います。でも、専門的な母乳ケアや授乳のアドバイスとなると、やっぱり難しいところがあります。
interviewer:小児科側にも「相談されたけど答えられない」ということがあるんですね。
谷川さん:あるみたいです。実際に小児科の先生とお話ししていても、診察に来たお母さんが育児の不安や悩みを涙ながらに話してくれることがある。でも先生たちは、たくさんの患者さんを診察しないといけないじゃないですか。
interviewer:確かに、1人のお母さんと長時間話すのは難しそうですね。
谷川さん:そうなんです。先生自身は話を聞いてあげたいと思っていても、じっくり聞く時間がない。そのジレンマもあるみたいで。だから「助産師外来があると、そちらにつなげられるから安心する」という話も聞きます。
interviewer:そこで助産師さんが入ると、小児科の先生や看護師さんとは違うところまで見られるわけですね。
谷川さん:そうですね。赤ちゃんのことだけじゃなくて、お母さん自身のことも相談してもらえます。おっぱいのこと、授乳のこと、育児のこと、お母さんのしんどさとか。そういうところまで一緒に見られるのが、小児科に助産師がいる意味のひとつだと思います。
interviewer:小児科と助産師、それぞれの専門性を組み合わせることで、親子を一緒に見られると。
谷川さん:そうですね。どちらかだけでは届きにくかったところまで、見られるようになると思います。
だから「小児科に助産師がいる」意味がある

interviewer:実際に「小児科に助産師がいてよかった」と感じたケースはありますか?
谷川さん:いっぱいあります。今パッと思い浮かぶのは、予防接種に来られたお母さんですね。その方は助産師外来の予約をしていたわけではなくて、本当に普通に赤ちゃんの予防接種に来られていたんです。
interviewer:そこから、どうやって谷川さんにつながったんですか?
谷川さん:お母さんがスタッフと何気なく話している時に「実はおっぱいがすごく痛くて」って、ポロッと話してくださったみたいなんです。それでスタッフが「今日、助産師さんいるよ」って。たまたま私もその後の予定が空いていたので「だったらおいでよ」って、その方のためにもう1枠、助産師外来を開けたんです。
interviewer:予防接種に来ただけだったのに、その日のうちに相談できたんですね。
谷川さん:そうなんです。それでお話を聞いてみたら、その方は母乳がすごく出るタイプのお母さんだったんです。赤ちゃんも頑張ってたくさん飲んでくれているんですけど、それ以上に母乳が作られるから、おっぱいがずっと張ってしんどい状態で。
interviewer:母乳がたくさん出ることも、悩みになるんですね。
谷川さん:なるんです。お母さん自身がしんどいから「赤ちゃんがもっと飲んでくれたら私は楽になるのに」って思ってしまう。でも、そんなふうに赤ちゃんを責めてしまう自分もつらいって。気持ちもかなり落ちている状態でした。
interviewer:身体のつらさだけじゃなくて、気持ちの部分にも影響していたんですね。
谷川さん:そうですね。だから、おっぱいのケアはもちろんするんですけど、身体をほぐしながら、とにかくいっぱいお話を聞きました。「赤ちゃんは赤ちゃんなりに頑張って飲んでくれているし、お母さんもおっぱいがつらい中で育児を頑張っていて、本当にすごいよ」って。
interviewer:なるほど。小児科というと、どうしても「子どもを診る場所」というイメージがありますけど、実際にはお母さんのケアもかなり重要なんですね。
谷川さん:そうなんです。お母さんの状態って、赤ちゃんとの関わりにもすごく影響するんですよね。だから、赤ちゃんだけじゃなくて、お母さんの身体や気持ちも一緒に見ていくことが大事だと思っています。
interviewer:そこまで見られるのが、小児科に助産師さんがいる大きな意味なのかもしれませんね。
谷川さん:そうですね。
interviewer:そのお母さんは、その後どうされたんですか?
谷川さん:ケアをしながら、もうボロボロ泣いて、思っていたことをいっぱい話してくださったんです。それで少しすっきりされたのか、次に来られた時には、すごく楽しそうというか、笑顔でポジティブになっていました。
interviewer:かなり変わったんですね。
谷川さん:そうですね。「赤ちゃんも受け入れられたし、今の自分の状態もこれでOKなんや。私って十分頑張ってるんや」って、自分に丸をつけられたことで吹っ切れたんだと思います。そこから育児もすごく楽しそうにされていました。
interviewer:その後も助産師外来には来られたんですか?
谷川さん:はい。かかりつけとして小児科にも来てくださるようになって、助産師外来にも卒乳まで、ほぼ毎月、2年くらい通ってくださいました。今ではもうママ友みたいな感じです(笑)。
interviewer:最初は予防接種に来ただけだったんですよね。もし、その小児科に助産師さんがいなかったら、この相談自体が拾われていなかった可能性もありますね。
谷川さん:そうなんですよね。本人も最初から「助産師に相談しよう」と思って来ていたわけではないですから。小児科に来た時にポロッと出た悩みを、その場で助産師につなげられた。あの時は「私がここにいたから、お手伝いできたかもしれないな」と思いました。
明確な問題がなくても、支援を必要としているお母さんは、たくさんいる

interviewer:行政の赤ちゃん訪問も経験されていますが、実際にいろいろなご家庭を訪問してみて、感じたことはありましたか?
谷川さん:ありましたね。私みたいな嘱託の助産師が訪問するのは、基本的にはローリスクと判断されているご家庭だったんです。逆に、虐待のリスクがあるとか、何か心配なことが分かっているハイリスクのご家庭には、行政に常駐している保健師さんたちが訪問するという役割分担でした。
interviewer:つまり谷川さんが訪問するのは、事前には大きな問題がないと考えられているご家庭なんですね。
谷川さん:そうなんです。でも、実際に家の扉を開けて、お母さんと話してみたら全然違うことがあるんですよ。普通にお話ししていたはずなのに涙を流し始めるお母さんがいたり、旦那さんの赤ちゃんへの関わり方を聞いて「これ、虐待やん」と思うようなケースがあったり。
interviewer:事前の情報だけでは分からないことが、かなりあるんですね。
谷川さん:ありますね。だから、明確にハイリスクと判断されていなくても、実際には困っているお母さんっていっぱいいるんやなって、すごく感じました。
interviewer:行政としても、明確に問題がある家庭には手厚い支援ができる。でも、そこまでではないお母さんたちは、支援の必要性そのものが見えにくいということですか?
谷川さん:そうなんです。行政って、本当に大変な人たちを救い上げる場所でもあるので、虐待のリスクがある家庭とか、支援が必要だと分かっているところにはすごく手厚く関わってくれます。でも、そこまでではないけれど、このままだったら本当に産後うつになってしまうかもしれない、というお母さんたちは、どうしても見落とされがちなんですよね。
interviewer:問題が深刻になってからではなく、その前の段階で支援できるといいですよね。
谷川さん:そうなんです。そういうお母さんたちに、どうやって早い段階で支援を届けるかがすごく大事なんじゃないかなと思っています。
interviewer:そこで、小児科がひとつの接点になる。
谷川さん:そうですね。自分から助産院へ行ったり、育児のイベントを探して参加したりできるお母さんもいます。でも、それができないくらいしんどい人もいるじゃないですか。
interviewer:自分で支援先を探して、予約して、そこまで出かける。それ自体にある程度の余裕が必要ですもんね。
谷川さん:そうなんですよね。でも、小児科だったら子どもの病気や予防接種で来ますよね。そこでスタッフさんや先生が「このお母さん、ちょっと心配やな」「なんか張り詰めてるな」って気づいてくれて、「助産師さんとゆっくり話せる外来があるよ」ってつないでもらえたら、そこから継続して関われるんです。
interviewer:なるほど。支援を求めて小児科に来るわけではなくても、結果として支援が必要なお母さんを見つけられる可能性がある。
谷川さん:そうなんです。1ヶ月に1回ゆっくり話を聞くこともできるし、必要だったら「お家にも行くよ」って言える。「困った時にここへ行けば何とかなるかもしれない」「話を聞いてもらえるかもしれない」って思える場所があるだけでも、少し心が軽くなると思うんです。
interviewer:そう考えると、小児科は子どもの病気を診る場所であると同時に、表からは見えにくいお母さんのしんどさに気づける場所にもなり得るんですね。
谷川さん:そういう場所になったらいいなと思っています。だから、小児科で働く助産師さんがもっと増えたらいいなって思うんですよね。
予防接種は、お母さんのSOSに気づく機会にもなる

interviewer:お話を伺っていると、小児科に定期的に来てもらえること自体が、お母さんの状態を見る機会にもなりそうですね。
谷川さん:そうなんです。予防接種って、すごく大事な機会だと思っています。
interviewer:子どもに予防接種をする以外にも価値があるんですね。
谷川さん:はい。さっきお話ししたおっぱいが痛かったお母さんも、もともとは予防接種で来られた方でしたよね。もう一人、印象に残っているお母さんがいて、その方も予防接種で来られた時に、すごくしんどそうだったんです。
interviewer:その時は、誰が気づいたんですか?
谷川さん:小児科の先生です。「このお母さん、ちょっと大変そうやな」って気づいてくださって、助産師外来を勧めてくださったんです。
interviewer:先生が子どもだけじゃなく、お母さんの様子も見ていたんですね。
谷川さん:そうなんです。それで私の外来に来てもらったら、本当に疲れ果てていて、メンタルもかなり落ちている状態でした。
interviewer:そこから、どのように対応されたんですか?
谷川さん:助産師外来が終わったあとに、私からもう一度、小児科の先生にお母さんの状態をフィードバックしました。それで先生から、お母さんにメンタルを落ち着ける漢方を出してもらったんです。
interviewer:助産師さんだけで抱えるのではなくて、また小児科の先生にも戻すんですね。
谷川さん:そうですね。それと、そのお母さんは実家で過ごしていたんですけど「もうしんどかったら自宅に帰って育児をスタートした方がいいんじゃないか?」という話にもなりました。
interviewer:その後、お母さんはどうなったんですか?
谷川さん:自宅に帰って、先生が出してくださった漢方も飲んで過ごしたら、そこからガラッと変わって。2週間後に来られた時には「育児めっちゃ楽しい」「幸せ」みたいな感じになっていたんです。
interviewer:そんなに変わったんですか(笑)。
谷川さん:そうなんです。逆に先生が「ちょっと上がりすぎてない? 次また下がらへんかな」ってちょっと心配するくらい(笑)。でも、実は明るい方がそのお母さん本来の姿だったんですよ。その後もずっと明るいままでした。
interviewer:これも、予防接種で小児科に来たことが入口になったんですね。
谷川さん:そうなんです。
interviewer:しかも、先生がお母さんの異変に気づいて、谷川さんにつないで、必要ならまた先生に戻す。それもこれも、小児科に助産師さんがいるから、その場でできることなんですよね。
谷川さん:そうですね。助産師がいなかったら、お母さんのしんどさに気づけたとしても、そこからじっくり話を聞いたり、母乳や育児のことまで含めて継続的に関わったりするのは難しかったと思います。
interviewer:小児科の先生と助産師さん、それぞれの専門性があるから、お母さんまで含めて支援できる。
谷川さん:そうですね。小児科の先生にもいろいろな方がいて、子どもを診ることに集中される先生もいれば「小児科は親も見ないといけないし、子どもも見ないといけない」と考えている先生もいます。そういう先生だったら、お母さんの変化にも気づいてくださると思います。
interviewer:そこに助産師さんがいることで、気づいたお母さんを実際の支援につなげられるわけですね。
谷川さん:そうですね。お母さんの状態って、結局は子どもにも影響しますから。小児科で親子を一緒に見ていけることは、すごく大事だと思っています。
「小児科に助産師がいる」を当たり前にしたい

interviewer:ここまでお話を聞くと、小児科に助産師さんがいるメリットはかなり大きいように感じます。それでも、実際にはまだ珍しいんですよね。
谷川さん:そうなんです。小児科の先生たちと話していても「助産師さんに外来を担当してもらえたら、すごくありがたい」と思ってくださっている先生はいるんです。でも「じゃあ、いい助産師さんってどこにいるんやろう」って。
interviewer:そもそも小児科と助産師さんの接点がないってことですか?
谷川さん:そうなんです。小児科の先生側に助産師さんとのつながりがなかったり「優しく寄り添ってくれる助産師さんと出会いたいけど、どこにいるんだろう」と思っているうちに、なかなか実現しなかったり。
interviewer:逆に、助産師さん側はどうなんでしょう?
谷川さん:助産師側にもハードルがあります。出産できる施設が減ってきていて、働ける場所が減っているという危機感を持っている方はいると思うんです。でも「小児科は全然違うフィールドやし、私には無理」って。
interviewer:谷川さん自身も、最初は「持っている知識の2割くらいしか通用しなかった」とおっしゃっていましたもんね。
谷川さん:そうなんです。産後1ヶ月以降の知識が少ない状態で、小児科の外来を担当するのって、やっぱりすごくハードルが高いんですよね。
interviewer:小児科側は「助産師さんに来てほしいけど、誰に頼めばいいか分からない」。助産師さん側は「興味はあっても、小児科の知識がないから怖い」。お互いにニーズはあるのに、つながっていない状態なんですね。
谷川さん:そうなんです。そこがうまくマッチすれば、小児科で働く助産師さんってもっと増えるんじゃないかなって思っています。
interviewer:そのために、谷川さん自身も何か始めているんですか?
谷川さん:今まさに取り組んでいるのが、助産師さん向けの母乳ケア研修です。助産師としてもともと持っている知識に加えて、産後2ヶ月以降のお母さんたちからよく聞かれることや、乳房ケアの手技などを学んでもらって、小児科でも対応できる「手札」を増やしてもらいたいと思っています。
interviewer:助産師さんがもともと持っている専門性を、小児科でも生かせるようにしていくんですね。
谷川さん:そうですね。母乳ケアの研修や育児伴走の講座などを通して、まずは仲間になる助産師さんを増やしていきたいです。そのうえで小児科の先生たちに「こんなにいい助産師さんたちがいますよ」って言えるようになったら、助産師外来を作ろうと思ってくださる小児科も増えるんじゃないかなって。
interviewer:谷川さん自身が、小児科と助産師さんをつなぐ役割になる。
谷川さん:はい。私は今後、そういう架け橋みたいなことをやっていきたいと思っています。
interviewer:最終的には「小児科に助産師さんがいる」ということ自体が、珍しくなくなるといいですね。
谷川さん:そうですね。お母さんが子どものことで小児科に来た時に、自分のことも一緒に相談できる。困った時に「ここに来れば話を聞いてもらえる」と思える。そんな場所がもっと増えてほしいですし、小児科で働く助産師さんも増えたらいいなと思っています。




